4・北敷との交渉 参

「まず、我等と北敷が手を組むとして誰が纏めるかと考えれば、候補は波左衛門殿か俺だろう。それは宜しいか?」

 俺の問に皆頷く。

「では、俺の下に付かぬかと言ったのは、波左衛門殿には申し訳無いがこの二人を比べた時に俺の方が齎せるモノが多いと考えたからだ。具体的には知識、人脈それから戦の経験もだな。」

 この言葉には波左衛門は苦い顔をしたが否定は出来ないと思ったのだろう。他の者は俺の事を知っている者は納得はせずとも理解はすると言った表情、知らぬ者は懐疑的な表情をしている。

「それからこっちには旗印となる者が居る。」

 そうこれこそが彼等を説き伏せる最も重要な点の一つだ。旗頭が居れば大義が立つのだから。

「旗印?あの坊さんの事か?」

 俺の言葉に怪訝そうな顔をしながら安継がそう聞く。

「いや、あの方は尊敬に足る人物ではあるがそもそもが彌尖の生まれではない。」

「じゃあ、誰だ。生まれで言ったらお前達兄弟もそうだろう?」

「うん、その通りだな。宗太郎。お主の父親の名は何であった?」

 そこで俺は唐突に話を宗太郎に振った。


===宗太郎===

「宗太郎。お主の父親の名は何であった?」

 徐々に難しくなって行く話を必死に聞いていると突然大将にそんな事を聞かれる。

「え、えっと…貞親さだちかですけど…」

「違う違う、全部だ。何の貞親だ。」

「えっと、柴崎貞親…です。」

「柴崎だとぉ!?」

 慌てて答えた俺に大将がそう聞き返すので、改めてもう一度答えると波左衛門殿は大声を上げて立ち上がった。


======


「柴崎って彌下二郡の神郡長かみごおりのおさの柴崎の事なのか!?」

「そうらしい。尤も飯富に落ちて来たのは嫡男ではなかったそうだが、他が残っているとは聞かんらしいから宗太郎が当主と言って問題あるまい。」

 立ち上がったままの波左衛門が呆然と立ち尽くす。

 さて、神郡長とは律令国では郡司、近頃では郡代と呼ばれる役職に相当する役職で、担当する神郡の運営を行う者の頂点らしい。

 更に国司に相当する職務は大社の頂点である大宮司の職掌に含まれるらしい。だがこの地位は基本的に祭祀の頂点であって、神領の運営についてはほぼお飾りであったらしい。

 そして彌尖国には六つの郡があるのだが、その生産力の半分以上は彌下平野の二郡で占められており、そこのトップであると言う事は他の神郡長より一段上の立場であったと言って良いだろう。

 つまり、俺の後ろに隠れている少年は世が世なら一国を束ねる様な立場に就いていてもおかしくない男なのだ。

 ついでに言えば、目の前で立ち尽くしている波左衛門も本来は北敷海岸一帯に設置された射浪いなみ郡の神郡長らしい。何故本来なのかと言えば、代替わりの際に大社の許しを得に出向けていないからに他ならない。更に言えば射浪郡という名も現在ではすっかりと忘れ去られた名であるらしく、地元の者も今では北敷と呼ぶそうだ。


「どうだ、旗頭としては申し分ないだろう?」

 俺がニヤリと波左衛門を見返すと、

「それじゃあお前の下じゃなくて宗太郎の下に付くべきじゃないのか?」

 横から安継がニヤニヤしながら余計な事を言った。

「いいんだ、そんな細けえ事ぁ。どうせ俺の立場は宗太郎が独り立ちしたら宗太郎が継ぐんだ。大差無いだろうが。それに宗太郎の下に付けなんて言ったら清介が大騒ぎしそうじゃないか。」

「がはは、そりゃあ違いねぇ。」

「えっ!?」

「なんだと!?」

それを聞いて安継は盛大に笑い、宗太郎は顔を青くして、対する清介は顔を赤くするのだった。


「さて、現状我等が抱えている問題は根本的には物が足りないと言う事だと思う。要するに一言で言えば貧しいと言う事だ。」

 こちらの手札を一枚切った所で現状の確認に戻る。

「その中で問題を大きく分けると二つ、米や雑穀みたいな食い物が足りない事と、それ以外の物が手に入らない事だと思うが如何か?」

 自分達は貧しい。普段から感じる事であっても他人に指摘されると腹が立つのだろう。だが否定は出来ない。飯が足りないのは周知の事実だし、鉄製品等は目減りする一方だと聞いた。

「そこでまず食料については、我等の村の西側の原野を拓こうと思う。見知っている者も多いだろうが、そこそこの広さの平坦な土地にそれなりの水量の川がある。ここを田畑にすれば完全に解決とは言わんがかなり改善されると思う。」

「それで我等にどうしろと?」

 解決策の提示に波左衛門が疑問で返す。ここからはこれの繰り返しだ。

「人を出して欲しい。各村の農家の次男以降でやる気の有る者、それと出来れば女手も欲しい。上手く行けば自分の田畑が持てるし、所帯も持てる。勿論、こちらからも我等のやり方に慣れた者を出すし、大きな普請では人手も可能な限り出す。」

「人を出すと俺達が田植えや稲刈りでの人が足りなくなりそうだが…」

「今でも漁師まで総出なのか?」

「いや…田畑を持っておらん連中はあまり手伝わん。そいつ等にやらせるしかないか。」

「一人当たりの飯の量が増えると納得させて欲しい。」


「祥治殿、宜しいか?」

 波左衛門が納得した所で今度は吉兵衛が声を挙げる。

「何であろう?」

「祥治殿は常々売れる物を作らねばならぬと仰っていましたが、それではいけませぬのか?」

 中々的を射た質問が飛んで来た。彼の村は先にも言ったがとても小さい。その為、飯富に居る時も何か村の為になる事はないかとあれこれ積極的に見聞きしていたのだ。

「確かに煎海鼠や乾鮑のお陰で鉄も食い物も少しずつだが買えているな。」

 波左衛門もその意見に同調した。

「飯を外に頼り過ぎるのは危険だ。我等が買いに行くとしたら沓前しかない訳だが、我等が不作の時は、すぐ隣の沓前も恐らく不作だろう。必要な量が手に入らなければ飢える事になる。だから、自分達で作れる分はなるべく自分達で作るべきだと思う。」

「成程…」

 あちこちで考え込む姿が見える。


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 お陰様で★が2000を超えました、ありがとうございます!!

 次の目標は200万PVと★3000?遠すぎませんか??w

 皆様、★が2000超えてもいくらでも評価してくれていいんですよ?|д゚)チラッ


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