97・梶原党 伍 克時
巧い事やられてしまっている。後ろの集団が合流した敵は、崖に対して真上に掲げていた盾を斜めにし、縦に二つ並べて味方を守り始めた。あれでは、大石が落ちて来ても下にいなす事が出来てしまう。守りが崩せなければ、必然礫を飛ばす者も槍を突き出す者も有効的な働きが出来なくなる。出来ないどころか、時折意表を突いて盾の間から繰り出される槍や射掛けられる矢でこちらの怪我人が一方的に増えている有り様だ。
こちらに向いた盾も、盾を柵の外側に立て掛ける様に構え、その内側で破壊作業を行われてしまっていて狙い所が無い。実に見事な守りだ。
「春。八郎の所まで走って、大石以外は止める様に言って来てくれ。指示があるまで壁から決して体を出すなと。」
「は、はい!」
俺の指示を受け走り出した春だが、
「きゃあ!」
走り出した瞬間にそう叫ぶと右腕を抑えて倒れ込む。
「「春!」」
「だ、大丈夫!」
俺と宗太郎が慌ててそう声を上げるも、ヨロヨロと立ち上がると、そう答えてまた走り出した。抑えた右腕からは血が流ている。
敵が守りを固めるのと同時に始めたのが、時折盾の影から高い軌道で矢を放ち、左右の壁の裏、つまり俺や祥智が居る場所を狙って来る事だった。この短距離を曲射で狙っても狙った場所に落とすのは容易では無く殆ど盲撃ちの様なもので、滅多に当たるものではないのだが、こちらの動きを鈍らせるには十二分の働きをするし、春は運悪くそれに当たってしまったのだ。
被害は相手の方が圧倒的に多いはずなのにジリジリと押し込まれている様に感じる。考えろ、何が出来る?このままだと仲間がどんどん傷付いて行ってしまう・・・
===梶原克時===
「怪我をした奴は盾を持っている奴と変われ!座ってて良いから盾は斜めにして地面に着けろ!お前等はその上に二段にして盾を構えろ!」
前に追い付いて早々に俺はそう指示を出す。
生き残っているのは八人居るが、その内三人は怪我をして駄目そうだ。こいつらは盾を持たせて座らせておく。盾を斜めにして体で支えておけばデカい石が当たっても受け流せるだろう。
その上に俺と一緒に来た連中が盾を重ねる様に構えれば斜めにして減った分の高さも補えるはずだ。これで正面は何とかなる筈だ。
「おい、盾は柵の向こうに出せ!それにしがみ付いて縄を切るんだ!無理に壊さなくて良い、上の棒が外れりゃ後は乗り越えりゃ良いんだ!」
続けて、柵に取り付いた奴にはそう指示を出す。
柵は上下二段に竹の棒が渡して有るが、下の棒は高さ二尺程(約60cm)の高さしか無い。これは乗り越えちまえば良いんだ。手下共が盾の隙間から刀の刃だけを突き出し、鋸の様にして竹を縛る縄を切る。
「良し、切れた!って何だこりゃ!?」
歓声を上げた手下が一転、悲鳴を上げる。
目をやれば、普通一本の縄で縛るだろう所を態々二本の紐に分けて二回縛ってあった様だ。何とも涙ぐましいと言うか細かな所まで頭が回ると言うか、どちらにせよ呆れる程の工夫だ。
「慌てず下のも切りゃいいんだ!」
「ぎゃっ!」
俺が苛立ちながらそう怒鳴ったのと時を同じくして、そいつの背中に矢が刺さる。
左上の壁から撃って来ている奴だ。向こうの方が多少高い場所に陣取っているとは言え、この狭い隙間を通して来る腕前はここいらではちょっと中々お目に掛かれないぞ。
「お頭、正面の人数を減らして左の盾も二段にしましょう。ちと狭くなりますが矢は確実に防げます。」
弓の腕前に舌を巻いていると昌重が隣でそう提案して来る。
「そいつぁ、名案だ。おい、端の二人は昌重の言った通りにしろ!」
俺は即座にそう指示を飛ばす。
俺の指示を受けた二人は正面の守りから左側面の守りに廻り、空いた部分を埋めるべく左の盾持ちは一人分後退して隙間を埋める。これで、左からの矢は完全に防げる筈だ。
「痛ぇ!」
そう思ったのも束の間、今度は左に回った盾持ちが悲鳴を上げる。
俺の前にゴロリと転がって来たのは礫だ。やれやれ礫を飛ばすのも巧い奴が居やがるのか…
「唯の礫だ頭下げときゃ、後は根性入れてりゃ何とでもなんだろうが!」
再び、怒鳴るのとほぼ同時に上の棒がガランと音を立てて地面に転がった。
これで柵は後一つ、坂を上る事に拠って距離は遠退き高さは近付くんだから左からの矢の脅威は下がるだろう。
「おら、手前ぇ等行けぇ!」
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真ん中の柵も突破された。敵は一気呵成に攻め上がって来る。あの盾を崩す手を考えなければ…
「春!祥猛を呼べ!」
未だ血が流れる右腕を抑える春にそう言う。
春は怖気る事無く直ぐに走り出す。そして角を曲がったと思ったら直ぐに祥猛を連れて戻って来た。
「兄者、どうする!?」
厳しい面持ちで聞く祥猛。
「八郎達に合流して指揮を執れ。二段になっている上側の盾の一番上を槍で叩かせるんだ。竹槍も使って人を増やせ、崩せるはずだ!そこをお前が突くんだ!門は幸に任せて良い!」
「そ、そうか、盾を反らすんだな!?直ぐにやる!」
祥猛はそう答えると脱兎の如く走り出した。これで流れを何とかこちらに引き戻せれば良いのだが…
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