96・梶原党 肆
敵の一団から悲鳴や怒号が上がる。俺の矢もそこへ飛び込むが成果ははっきりしない。一方で明確なのが三太の礫で、しっかりと狙いを定めた礫は数こそ少ないものの、確実に柵を壊そうとする敵の顔を中心とした上半身へ飛んで行っており、既に一人打ち倒している。
だが想定外に敵が二手に分かれた事で、逆から攻撃する筈の祥智と弥彦は身動きが取れない様だ。当然だろう、一つ目の集団を狙おうと身を乗り出せば当然、後ろを行く二つ目の集団から狙われるからだ。
二つ目の集団はまだ折り返しの所に居て、弓で胸壁から身を乗り出す八郎達を狙おうとしている様子だ。しかも、具合が悪い事に先頭に居た弓持ちも何人か後ろに移動しているらしい。
それを察知した祥智は早撃ちで二つ目の集団に矢を射掛け始める。狙いは甘くなるが、撃っては直ぐに身を隠して敵の弓持ちを邪魔するつもりなのだ。恐らく次は少し場所を変えて撃つのだろう。
俺はその隙に主力の八郎達を移動させるべく春に合図を送る。すると直ぐに門の脇で ’カンカンカン’ と鐘が打ち鳴らされた。それを聞いた皆は、事前の取り決めに従ってサッと胸壁に身を隠すと次の柵の上に走って行く。
勿論、全員が移動してしまうとそこから敵に登られてしまうので、その場に女が三人残って散発的に礫を飛ばす事になる。敵を減らした分こちらも人数を減らさなければならない事は忸怩たる物が有るが致し方無い。
抵抗が弱まった隙に敵は一気に柵を壊しに掛かる。そうなれば竹と縄で組まれた簡易的な柵は大した時間を稼げない。彼等が踏み越えた後には折れ倒れた防柵と、八郎達が決死の覚悟で身を乗り出して突いた者、運悪く大石を頭に喰らった者が合わせて四人倒れ伏し、投石の当たり所が悪かったのだろうか、更に三人程の男がその場に蹲って居る。
だが、その三人は早々に残った女達の目標とされる。後ろの集団から身を隠しながらとは言え、近距離の動かない的なら如何と言う事は無い。周りで地に這う他の四人と同じ道を辿るのも時間の問題だろう。一つ目の集団は最早半数を喪ったと見て良い。 更に、柵を踏み越えた者の中にも足元の覚束ない者や頭から血を流す者が数人見受けられる。落ち着いて見れば一つ目の集団で満足に戦えそうなのは残り数人になっている。この状況なら後ろの集団が合流せざるを得なくなるだろう。
一方で、こちらも無傷とは行かないだろう。壁越しなので細かくは分からないが何人かが怪我を負った気配が有った。大事無いと良いのだが。
予想した通り、後ろの集団が一気に距離を詰めて前の集団に合流を図って来る。目の前を通る敵に対して、残った女達が慌てて石を投げようとする。が、それを見越して敵側も弓を用意している。上って来なければ手出しするなと伝えたい所だが間に合わない。敵が二手に分かれるのは完全に想定外だったのだ。
「体を出すな!」
思わず、胸壁から身を乗り出し女達へ怒鳴るがそれより一瞬早く矢が放たれる。
直ぐに女達も狙われている事に気が付き身を隠そうとしたが間に合わない。一本が田鶴の腕を掠める。仰け反る様に田鶴は胸壁の向こうに倒れて行く。更にもう一本がその陰の誰かを掠めた様に見えた。二人共命に関わる様な怪我では無いだろう。敵も慌てて矢を放ったせいか狙いが甘かったお陰で狙いが甘かったのだろう。
その隙に盾から身を曝した敵の弓持ちを祥智と弥彦が狙う。こちらからは宗太郎と三太も機を逃すまいと石を投げる。俺も慌てて弓を構える。
敵は二つ目の柵に取り付いたが、こちらの矢と石を前後から受けている。相応の混乱を引き起こせるかと期待したが、しかしそこは頭領の梶原克時が合流して一つの集団となった敵は落ち着きを取り戻す。密集して盾をしっかり構えて攻撃にしっかりと耐えて居る。
===梶原克時===
崖下に取り付いた後、味方を二つに分けた。後ろを行く俺達の集団が前を行く集団を矢で援護する形に隊列を組み直す。怖いのは投石だ。その為に最前列に配置した弓持ちを後ろに下げて、後ろに付く俺達が少し離れた場所から投石をする敵に矢を射掛ける。
その予定だったのだが…最初に一瞬だけ有った投石の後は最後の折り返しを曲がるまで何も抵抗を受けない。かと思いきや、そこから猛烈な抵抗を受ける。道を塞ぐ柵を壊そうと取り付いた前の連中に最初よりも更に大きな石が落とされ、盾の並びを崩されてしまう。そして、算を乱した所に、具足を纏った男が壁から身を乗り出して槍を突き込んで行く。後ろに俺達が居る状況であれをやるのは生半な度胸ではない。
そして、そいつらを排除しようと後ろから矢を射掛けようとした俺達の方へも横合いから矢が放たれる。数こそ多くないがかなり正確な狙いの射手だ。更には前を行く連中も逆側の横合いから攻撃を受けている。
やはり、この連中を率いている奴はかなり出来る。絶対にあの声も体もデカい女の仕業では無い筈だ。お陰で前の連中は既に半分程に数を減らされてしまった。せめて重昌を前にやっておくんだったな。それならばあそこまで一方的なやられ方はしなかっただろうに…惜しんだつもりは無かったが、やはりどこかに惜しむ気持ちが有ったのだろうな。
そうこうしている内に第一の柵を突破する。その直前に敵方に動きが有ったのを考えると突破させて貰ったと言うべき状況だ。柵が長く保たない事を見越して先んじて次の場所に移ったのだ。やはり指揮が手馴れている。あそこから梯子を掛けて登る手も有るが、梯子は一台だけだ。盾を持つ以上梯子は多くは運べないからな。どちらにせよ前の連中と合流するのが先決だ。俺達は横合いからの矢を警戒しながら前へと進む速度を速めた。
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大変お待たせしております。月初にコロナに倒れて以来、体調が戻り切らずに執筆速度が上がらない中、今度はPCがお亡くなりになりました…
デカい買い物なので少し吟味する時間も欲しく。カクヨムリワードも角川の情報流出事件以降爆下がり(多分半分くらいになった)している中で中々厳しい状況です。
え?PC買える程リワード稼いでるのかって?…一年分全部突っ込めば安い中古品なら多分…
と、言う事で更新頻度が更に低下するやもしれません。その間に皆最初から読み直してくれてもいいんだよ?PV増えるし…何周も読んでくれていいんだよ?リワード増えるし…|д゚)☆クレテモイインダヨ?
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