閑話・飯富火器妄察夜話 下

 さて、長々と弾丸(砲弾)について説明したが勘の良い諸兄ならもうお気付きであろう(果たして俺は一体誰と会話をしているのだろうか)。そう、「この時代の火縄銃や大筒から打ち出す球は只の丸い弾だってお前自分で言っただろう!榴弾の説明なんていらないじゃないか!!」と。

 だが、だがしかし、言わせて欲しい。敵兵に向かって大砲を撃ち、地面に弾が着弾すると爆発が起こって周囲の敵兵が吹き飛んだり、敵の船に大砲を打ち込むと敵船が粉々に吹き飛んだりする小説の何と多い事か(お前は一体誰なんだ)!!始めて読んだ時はいつの間にか着発信管(着弾すると内部の炸薬に着火する装置)の開発に成功している!?と驚いたものだが決してそうではなかった。

 地面に着弾した砲弾は多少の土を巻き上げながらボスっと地面にめり込むだけだ(まぁ石だらけの川原の様な地形なら石を弾き飛ばして多少の被害が出るかもしれない程度の話だろう)。

 船を撃てば当たった場所に穴が開くだけだ。なぜなら木の板に鉄の玉をぶつけるだけだから…それも大概は喫水線上になので浸水もしない。そもそもこの時代の艦載砲は敵船の帆や帆柱、策具ロープ類や櫂等の航走の為の設備を破壊し敵の移動力を低下させ、更に人員を殺傷して、その後の接舷移乗を容易ならしめる為のものである。その為に鎖弾チェーンショット棒弾バーショット等で設備を破壊し、葡萄弾グレープショットや球弾の前に袋に詰めたマスケット(火縄銃)の弾を詰めて散弾代わりにするのである。某鼠の会社の有名海賊映画で大砲にフォークだのなんだのとにかく詰めて撃つ場面があったがあれもやりたい事は全く同じである。

 そも大筒は徳川家康が大阪の陣で大阪城に対して用いた様に硬い目標(戦国の世で言えば建築物等の防衛設備)に対して用いるべきものであって、軟らかい目標である人間に対して用いるのは不適切なのである。なぜならば大筒で与える被害はその射線上に限定され、その弾道は水平に放つ鉄砲のそれとは違い自陣の後方から射撃する関係からある程度の放物線を描かざるを得ず、敵兵の密集地帯に打ち込んだとしても斜めに落ちて着弾するまでのわずかな距離でしか被害を与えられない為、成果は射線上の数人に限定されるからだ。勿論、水平射すれば被害を増やす事は可能であろうがそれをする為には機動力の極めて低い大筒を最前線に配備する必要が生じる。これがいかに馬鹿げた事であるかは語るまでもないだろうし、その資材を以って鉄砲を生産した方が圧倒的に効果的であると言えるだろう。


 と、長々と叫んでみた訳だが、結局何が言いたいかと言うと、密集体系の敵陣に球弾しか撃てない大砲で対応しても大した効果は期待出来ないし、散開されるともう手も足も出ないと言う事である。

 飯富村の戦略としてしては崖の上に立て篭もり、敵の進路を一本道の登り坂に限定して迎え撃つ迎撃一本槍の戦いを指向しているので、敵城門なんて物は現れようがない事からも大砲は候補から外れる。勿論例外として攻城兵器の存在が上げられるが、この狭い急坂で運用出来る物と考えれば小型の破城槌程度の物であろうから、それだけの為に大砲を配備するのは問題外だろう。


 となると鉄砲か焙烙玉かと言う話である。前者の利点は狙いが付け易く、確実な作動が見込める事だろうか。欠点は複雑な機構の開発と多くの資材が必要になる点か。時間も要するのは言うまでもない。

 対して後者の利点はとにかく一度に複数の対象に被害を与え得ると言う点に尽きるだろう。鉄砲の点での攻撃に対して面で攻撃出来ると言うのは大きいと言えよう。そして火薬以外の材料は非常に安価。他に敵に対して姿を暴露しなくても投げ込めると言うのも利点かもしれない。狭い道を密集して敵が登って来るこの場所では常時効果が見込めると言える。欠点は安定性だろう。兎に角、着弾と着火の時期を合わせるのが難しい事が想定される。現状着火方法で想定されるのは火縄を導火線にする古典的漫画方式であろうが、これを安定させようと考えると火縄を短くする他なく、これは同時に自爆の可能性を高める事にも繋がる。それと一つ辺りに必要な火薬の量が多いだろうから生産性も問題になりそうだ。


 では実現可能性をと考えるとやはり焙烙玉となるだろうか。何人もの鍛冶を専任で投入出来る規模の勢力なら鉄砲も考慮に入れる事が可能かもしれないが我等の力では到底及ばないだろう。

 早々に除外したが鉄砲よりは大筒の方が幾らか難易度は低いかもしれない。何故ならば鋳型による鋳造で作れるだろうし、その技術は寺院の鐘を作る鋳物師なら近しいものを持っているだろうからだ。更に材料も鉄ではなくより加工が容易な青銅で出来るはずだ。確かカルバリン砲なんかは青銅製ではなかったかと思う。まぁ、問題は鉄より銅の方が高い事だが。

 さて、ここまで考えを進めた所で一つ意図的に除外していた弾種が有る。そう、散弾である。焙烙弾の面での攻撃力と鉄砲の安定性を両立出来る素敵な火器だ。口径も火縄銃より大きくなるだろうからひょっとすると鋳型で作れるのではないかと期待したりする。最早銃と砲の中間の様な大きさになるだろうが、歴史上大筒の中には抱え大筒とか言うとんでもない物も存在したらしい。力士だが歌舞伎役者だかが大筒を脇に抱えるそんな浮世絵を見た覚えがある。これが投入出来れば一気に防衛力が増す、と言うか時代を超越してしまうのだが、そもそも鋳型職人に伝手も無いしね。夢の又夢なんだわ。と言う事で、まずは地道に硝石を生産に乗り出すとしましょうかね。そう自分の中で締めくくるとすっかり夜も更けた雪道を歩き、長屋へ向かう。


※※※※※※


 台風のせいでしょうか頭痛が酷くてすっかり遅くなってしまいました。ついでに胃が食事の受付を拒否しております…気圧の変化に弱いのです…と言う事で明日の更新も全然自信がないので気長にお待ち下さい。

 しかし、今回前回ともうダラダラと自分の妄想を垂れ流しました。ちょっとタイトルも変更しました。後から見直してもまぁ読みにくいこと読みにくいこと…その内書き直すか綺麗さっぱり無かった事にするかするでしょう。え?あちこちに喧嘩売った?いえいえ、ソンナコトナイデショー…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る