43・なんで…
※※※前書き※※※
レビューを頂戴しました。有難うございます。大変励みになります。
また、後書きにお知らせがございますので御一読頂ければ幸いです。
※※※※※※
===宗太郎===
「ちっ…しけてやがんな…」
「兄者、言ってる事が賊のそれだ…寛太の教育に良くないから止めてくれ。」
「お、一丁前に師匠みたいな事を言うじゃないか。」
「師匠みたいじゃない、師匠なんだ!」
大将と猛様がいつもみたいな呑気な会話をしている。周りには襲って来た賊の死体が転がっていて殺伐としているんだけど…
十人も居た賊だったけれど、坂を半分程上った辺りで猛様達が奴らの後ろから静かに矢と石を放った。その直後に大将が俺たちにも石を放てと命じた。結果、一塊で進んでいた奴等は三方から飛んで来る矢と石に呆気無い位あっさりと倒れていった。
結局一人として門の前に辿り着く事は無く、かと言って逃げ出す事も出来ずに一人、又一人と倒れて行った。途中で誰も逃がすまいと猛様が柵を乗り越え縄を使って坂道に飛び降りて退路を塞いだけれどそれも無駄に終わった。なぜなら、その時にはもう奴等は誰も立って居なかったのだから。
去年まで皆で必死に戦っても苦戦するばかりだった賊にあっさりと勝ててしまった。しかも大将は指示を出した以外は立っていただけだ。やっぱり上に立つ人が重要なんだと感じる。大将にはいずれ俺がって言われているけれど…
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「宗太郎の教育にも悪いぞ?」
祥猛がそう言い募る。
「宗太郎もそろそろ元服が近い。世の中綺麗事だけでは済まん事を教えなけりゃいかんさ。」
そう言いながら身包み剥がされ地面に転がる賊共を見やる。矢と石の雨を受けても何人かは口が聞ける程度の怪我で済んで居た。死んだ者は村の者が逐次お堂の裏の墓地に運んで行く。
しけていると言ったのも過言ではない。結局手に入ったのは質の悪い槍と弓矢、そして腹巻と着物位のものだからだ。
「おい、残りの連中はどこに行った?」
「の、残り?」
話の出来そうな傷の浅い者の内、年若そうな男を引っ張り起こして聞く。
「平林で二手に分かれたのは分かっているんだ。」
「そ、それは…」
口篭る男に、
「おい…余計な事喋るんじゃねぇ…」
息も絶え絶えの年嵩の男が顔を上げて年若い男に凄む。
「ひっ…」
途端に恐怖で表情が引き攣る男。が、
「ぐふっ…」
俺の槍が年嵩の男を貫く。腹巻も着物も剥ぎ取られた後だ、体を守る物は何も無い。
「お前もこうなりたいか?」
「あっ、あっ…」
目の前であっさりと死体に変わる味方の年長者を目の当たりにして恐怖に口をパクパクさせて居る。
「残りの連中はどこに行ったと聞いている。」
目を細めて冷たく聞く。
「あ、あ、け、怪我した奴等は、先に
つっかえつっかえそう答えた。
「塒は何処だ?」
「も、森の中…」
「森のどこだ?」
「どこって…」
困惑の表情を浮かべる男。細かな地理には詳しくないのか?
「どんな道のりで帰る?」
「え、えっと…さっきの村の一つ先の村の傍から別の支流を上って行く…」
一つ先と言うと深緒の辺りだろうか?森の中と言う事は大した拠点ではないのか?
「そこには何人居る?」
「も、戻って行った連中だけだよ…」
手負いが十人程度か。頭はこちらに来ていた様だし、もう大した脅威にはならないか。
「早瀬にはお前達みたいなのが他にも居るのか?」
これも是非欲しい情報だ。
「い、居るらしい…どっかの寺を塒にしてるって…」
「お前達より大所帯なのか?」
「そ、そう聞いた。」
「どの位だ?」
「そ、そんなの知らない!」
まぁ、下っ端から聞けるのはこんな所か。
「そうか、良く教えてくれた。」
俺は穏やかな口調でそう伝える。
===宗太郎===
大将が賊の生き残りから話を聞き出している。残りの人数、塒の場所、他の賊、その為にもう一人の生き残りをあっさりと突き殺してしまった。
「そうか、良く教えてくれた。」
大将が労う様に生き残りにそう言った。
年の頃は大将達より大分若く見える。俺より少し年上だろうか。そいつは大将の言葉を聞いてホッとした様な顔で緊張を少し解いた。
その瞬間、大将の槍がそいつの胸を一突きにした。口から血を垂らしながら「なんで?」と言う表情を浮かべたまま目から光が消えていく。大将、なんで…
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門の外で夕日が沈み行く西の方を見やる。平林から昇っていた煙はいつの間にか見えなくなっていた。
結局、朝一番に鳴らされた鐘の音の後始末は丸一日掛かり、それでも圧倒的な勝利と言う望外な結果に皆の表情は明るかった。
俺に言わせれば倍以上の人数で防御施設に拠って戦ったのだから当然の帰結なのだが、襲撃の度に被害を受け続けて来たこの村の者達にとってはそれは長らく見る事の無かった希望の光だったのだろう。
「納得が行かないのか?」
俺は背後で物言いた気に立つ宗太郎に声を掛ける。
襲撃を撃退し皆が進んで後片付けをする間も、祝いとしていつもより少し豪勢な夕餉に皆が笑顔で舌鼓を打っている間も一人物言いた気な表情でこちらを窺っていた。
「殺さなくても良かった。そう思っているんだろう?脅して聞き出すだけ聞いたのに、相手は正直に答えたのに、と。」
「……はい。」
俺の指摘に答え辛そうに、しかしはっきりとそう宗太郎は答える。
「殺さないとすれば、どうすれば良かったと考えている?」
「……それは…」
そこまでは深く考えていなかったのか、それとも考えてはいるが自分でもその答えの問題点に気が付いているのか。
「殺さないとすれば取れる選択肢は二つだろう。仲間に入れるか逃がすかだ。それは良いか?」
「はい。」
「仲間に入れるとしてお前は一度は村を襲って来た相手を、賊だった相手を信頼出来るか?他の皆はどう思う?」
「で、でも八郎さん達みたいに!」
俺の指摘に必死に反論を試みる宗太郎。
「八郎達は賊に捕まっていた人々だ。さっきの奴とは違う。言うならばお前達と同じ賊に虐げられた者達だ。それ故にお互いに通じ合う所も多かったのだろう。」
「…」
しかしそれも俺の追加の指摘で黙らされてしまう。
「それから逃がすのは論外だ。逃がした結果奴が辿る道は二つ。そのまま野垂れ死ぬか…再び賊に足を染めるか…だ。分かるか。どちらの選択肢も誰も幸せにならない。」
「で、でも…この村に居れば生きては行けるかもしれない…」
それでも諦め切れない様子だ。年齢的にも宗太郎と大差ない男だったから感情移入も大きいのだろうか。あの位の年上の子供が以前は居たかもしれない。
「確かにこの村で真面目にやり直せばいつかは皆に受け入れられる日は来たかもしれない。」
「じゃ、じゃあ!」
「だが、今の俺達にそれを待つ余裕は無いんだ。いつまた悪さをするかも分からない奴を抱え込んで暮らして行ける程の余裕は無い、それはお前にも分かるだろう?」
「……」
再び黙ってしまう宗太郎を振り返って見れば、悔しさと悲しさの混じった表情で目尻に涙を浮かべている。
「お前のそれは優しさだ。亡くなったご両親や和尚様の教えが良かったのだろう。それは間違いなくお前の美点だろう。だが、皆を守ろうと思うとそれだけでは足りんのだ。多くの場面で厳しさや非情さが必要になる。特に我々の様な弱き者には殊更にな。」
両の拳を握り締め、黙って地面を睨み付ける宗太郎にそう言うと、俺はお堂へ戻る道を歩き始めた。
「正しき事は一つとは限らん。自分ならどうしたか、そうしていたらどうなったか考えることも大切だ。お前は近い将来この村を守る男にならねばならないのだから。」
すれ違い様に宗太郎の背中にそう伝えるとお堂へ向かう。後には地面を見詰め微動だにしない宗太郎の長い影が伸びていた。
※※※後書き※※※
いつもお読み頂きありがとうございます。再来月の4月1日を以って、本作はカクヨムでの投稿を開始して丸1年となります。
それに先駆けて、3月1日より投稿日を現状の毎週月曜から月水金の週三回へ変更致します。
また、4月には1周年記念としてIFストーリーの投稿も予定しております。こちらは先行して1周年を向かえた小説家になろうで投稿した分に加えて追加分も製作中ですので楽しみにお待ち頂ければと思います。
最後に1周年を前にしてPVがかなり寂しい事態となっております。現在頑張って製作速度を上げておりますので、まだの方は宜しければモチベーション維持の為にもブックマークと評価をお願い致します。
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