32・始まる日常

 前回の投稿分は、閑話と通常投稿の二話が投稿されています。少し時間が前後しての投稿となってしましましたので読み逃された方は宜しければもう一方もご確認頂ければ幸いです。

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==宗太郎==

 眠い眼を擦って何とか起き上がる。大人達はもう外で朝飯の支度を始めている。手伝いをしなければいけないから、足を引き摺る様にお堂の外に出る。昨日、漸く村に帰って来た。今日は一日休んで良いと言われたけど、手伝わないと春が煩いんだ。

「あら、宗太郎。起きられたの?」

外に出て早々、春にそう言われる。冬の始まりの冷たい朝の空気に包まれて一気に目が覚める。

「あぁ、手伝う事はあるか?」

「大丈夫よ。あら、寛太。おはよう。今日もちゃんと一人で起きられたのね。」

そう答えた春が、俺の後ろに目をやり、そう言った。

「…うん…おはよう…」

そう言って寛太が俺の横を擦り抜けて行く。春は今日もって言った?あの寝坊助の寛太が?下手すれば稲や糸より遅くまで寝ていたのに。

 草鞋を履いた寛太は、綺麗に形を整えられた木の棒を持って人の居ない方へ歩いて行く。

「なぁ、寛太どうしたんだ?」

気になって春にそう聞いた。

「ふふふ、どうしたんだろうねぇ。」

そう笑いながら春は仕事に戻って行った。


「え?」

思わず目を疑った。人の居ない所まで行った寛太は棒を構えてブンブンと振り始めたのだ。あれは素振りだ。俺も祥智様に連れて行って貰った、曽杜湊の道場でちょっとだけやらせて貰った。

 良くは分からないけど寛太の素振りは、道場の人達みたいに綺麗な形になっている。適当にやっている様には見えない。

「おう、寛太。今日もちゃんと起きられたのか。」

そこに祥猛様がやって来て寛太に声を掛けている。

「おはようございます師匠。ちゃんと起きました。」

「うん、素振りも大分良くなっているぞ。」

「本当?」

「うん、本当だ。もう少し慣れたら回数を増やしても良いな。」

師匠?え?えぇ!?

====


 宗太郎が寛太の朝稽古を目の当たりにして愕然としている。

「くくくっ。」

「兄者、性格が悪いですよ。」

思わず零れた笑いを聞きつけて祥智がそう嗜める。

「だって、あの顔を見ろよ。」

しかし、俺は笑いが止まらない。

「はぁ…しかし、中々様になっているじゃないですか。いつからあんな事になっているんです?」

呆れて溜め息を吐いた後、そう続ける祥智。

「うん、お前達が出掛けた後すぐに寛太が祥猛の所に来てな。祥猛の喜び様ったらなかったぞ。俺の所に飛んできて、「兄者、俺は弟子を取る!」と来たもんだ。ぶふっ…」

そう様子を思い出すとまた笑いを堪えられなくなる。

「兄者…」

「お前にも見せたかったぞ、あの時の祥猛の顔ときたら…寛太が師匠って呼んでいるのだって、あいつがそう呼ばせているんだぞ。」

笑いながらそう説明してやると、

「やれやれ…」

そう言って、祥智は飯を取りに行った。


 朝飯を食い終わった所で皆を集める。

「皆に渡す物がある。」

そう言うと投石紐を取り出し、皆に配る。周が合間を見て少しずつ作ってくれた物だ。

「知っている者も多いだろうが、これは石で敵を打つ道具だ。寛太、石は持っているか?」

唯一既に投石紐を持っている寛太がこくりと頷く。

「じゃあ、あの手前の竈を狙って石を投げてくれ。」

また頷いた寛太は懐から紐と石を取り出すと、慣れた手付きで石を包み、紐をクルクルと回し始めた。

 狙いを付けて放たれた石は、狙い違わず’ガシャン’と音を立てて石を組んだだけの竈に直撃した。投げた石より大きな石で組まれた竈だが、当たった所の石が見事に崩れている。

「「おぉ」」

と、感嘆の声を上げる男衆と、

「「あぁ」」

と、驚愕の声を上げる女集。

「大将!竈を崩しちまって夕飯はどうするんです!」

怒られた…怒鳴った周と女衆に睨まれる。

「だ、大丈夫だ…今日から千次郎が屋根の付いた炊事場を作ってくれる事になっている。きっと竈の一つ位、今日中にも作ってくれるはずだ。な?千次郎。」

慌てて、千次郎に矛先を向ける。

「え?え?今日は大鋸で板を…あ、はい。」

「な、大丈夫だろ?千次郎、祥智と宗太郎は今日は一日休ませるから、もし人手が欲しかったら適当に使ってくれ。」

「それは休みとは言わない…」

祥智がボソっと言った事は聞こえなかった事にして千次郎にそう言った。

「これから日暮れ前に投石と、男は槍の稽古をする。炭焼きの見張りと弥彦は免除する。今日から夕方に鐘を鳴らすから、鐘が鳴ったら門の前に集まってくれ。どうしても仕事が終わらない時は人を寄越してくれ。当然仕事優先だ。良いか。」

漸く本題をそう言って伝える。

「「はい。」」

「良し、では今日も引き続き男衆は丸太の切り出しと運搬。女衆は竹の運搬と炭の運搬だ。八郎と満助は石を頼む。」


 八郎達が戻ってからの十日程は毎日ほぼ同じ作業の繰り返しになっている。男衆は基本的に木の伐採と運搬だ。乾燥に時間の掛かる木材は早めに切り出しておきたい。

 切り出している場所はお堂の周辺と館跡周辺の斜面だ。細い木は炭焼きにこの二箇所は、一度禿山にしてしまい、果樹を植えて行きたいと考えている。

 女衆は当初萱刈りに行ったが、これは二日もあれば刈り尽くしてしまった。刈った萱は一つの家を置き場として押し込んである。

 腐葉土作りの囲いにする蓋も、端に細竹を取り付けた葦簀よしずを作って設置した。毎日、稲と糸がクルクルと竹を巻いて蓋を開けて、竹竿で中の落ち葉を一生懸命掻き混ぜている。

 その後は、竹の切り出しに移った。川向こうの竹薮で男衆が半日総出で切り出して積み上げた竹を女達が毎日せっせと運んでいる。

 八郎と満助は佐吉と共に毎日石切り場まで馬を曳いて行き。佐吉が砕いた石灰石を馬に積んで運んで来る。一日に運べる量は然程でもないが、毎日運べば焼いて目減りするにしても徐々に石灰の備蓄も増えて来ている。こちらも家を一つ置き場とした。まだまだスカスカだが、いつか一杯になる時が来るかもしれない。いや、作る傍から使ってしまうから溜らないかな…

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