30・珍兵器

 四日前と同じ様に、門を出た所から北敷道を下ってくる男衆を眺める。前回、無警戒に通過させてしまった脇道の合流地点には予め物見を出す様に指示をした。

 分かれ道の手前で停止する隊列から、ましらの如く一人が走り出て、森の中へと走りこんで行く。体格からして三太だろうか。

 そう言えば、奴の故郷は遠濱だ。あそこは常に南の豊水と緊張状態にあり小競り合いが絶えない土地だから、こう言った経験が多いのかもしれない。あの身の熟しならそう言った場面で指名される事も多かったのだろう。

 暫くして森から出てきた三太が隊列に大きく手を振ると、再び隊列が進みだす。もう半刻もすれば戻って来るだろう。


’ゴロゴロ’

 その時、後ろからそんな音と共に茂平と千次郎に押された竹組の車がやってくる。

「大将、出来ました。本当にこんな物で良かったんですか?」

「おぉ、出来たか!」

ちょっと呆れた様に聞いて来る千次郎に対して、俺はちょっと盛り上がりつつそう答える。

「兄者、またおかしな事を思いついたのか…」

それを見た祥猛も呆れてそう言う。

 二人が押してきた物は縦横一間、高さ四尺程の大きさに箱組された竹材に、木の車輪が四つ取り付けられている。特徴的なのは、その前方に先端を斜めに切った長さ二間程の竹が上下二段に何本も突き出している事だ。

「…竹槍に見えるな。」

怪訝そうにそう言う祥猛。

「そうだ、正に竹槍だ。」

そう、車からは多数の竹槍が突き出している。道幅一杯の車を後ろから押して敵に突撃するのだ。突撃槍車一號と命名しよう。いや、一號突撃槍車の方が格好良いな。良し、そうしよう。


「これをどうしようってんだ?幅的に門の守りに使うのか?」

「その通り、ちょっと女衆三人ばかりで力一杯押してみてくれんか?屈んで、縦の棒に肩を押し付ける様にして押すんだ。」

俺がそう頼むと女達は顔を見合わせた後、三人が進み出て車の後部に取り付いた。

 体勢的にはラグビー部がスクラムの練習をする器具に取り付いた感じと言えば伝わるだろうか。後部には、肩を押し当て、手で掴むのに丁度良い幅で縦棒が取り付けてある。む、いかん。真ん中は村一番の力持ち、幸じゃないか。

「おい、皆危ないから車の前からどくんだ。三人は掛け声を合わせて一気に押してくれ。三歩で押すのをやめてくれ。」

俺がそう命ずると、

「「せーの!!」」

女達が声を合わせて一號を押す。想像以上の速度で進み始める一號。幸達は命じた通りに三歩で押すのをやめるが車はそのまま進んでしまう。

「おぉ…意外と悪くない…のか?確かにこれに当たれば一溜りも無いかもしれん。」

何とも微妙な表情で祥猛が言う。他の者は目を丸くして、どう反応して良いか分からない感じ。そしてチビっ子達は大喜びしている。車=楽しい遊び道具と言う意識が定着してしまったのかもしれない…


「これは門越しに攻撃出来る様に考えた。竹槍の幅は門の穴から丁度突き出る様に配置してある。しかも上下に付けてあるからしゃがんで避けたりする事も難しいはずだ。どう思う?」

俺がドヤ顔でそう問うと、

「成程、門を開けずに槍で突けるのは悪くない。だが、向こうからも突けるのだから盾を付けた方が良いんじゃないか?」

すかさず、そう反論されてしまう。

「確かにそうだ。千次郎、箱の中に斜めになる様に竹の盾を付けてくれ。上半分は節を抜いて砂を詰めると尚良いのだが。」

俺がそう聞くと、

「可能ですが、砂を詰めると重くなりますが…」

千次郎はそう指摘した。

「幸、重さは多少増えても構わんか?」

俺がそう聞くと車長は一緒に車を押した初と里の若手の顔を見た後、

「大丈夫だと思います。」

「では千次郎、それで頼む。」

一號突撃槍車は砂入りの竹束傾斜装甲を手に入れ、早くも一號突撃槍車改にバージョンアップされる事になった。


「それよりも門の内側から押すとなると、門にぶつけて壊してしまいそうで怖いんですが…」

俺が一人で悦に入っていると幸車長からそう指摘された。確かに、押すのを止めても慣性で車は止まる事無く進んで行った。

「門の内側に土嚢を積んでおけばそこで止まるだろう。何度かぶつかると車は壊れるかもしれんが一度の戦いで使えればそれで良い。次までに直せば良いからな。」

「でも、これは木の門扉が出来たら使えないぞ?」

祥猛がそう指摘する。

「その門がいつ出来るか分からんのだ。それまで役に立てば良いさ。」

俺は割り切ってそう言った。

 いや、でも登り坂も同じ様な幅だ。敵が上って来る時に、又は撤退して行く時に下り坂を利用して突撃出来ないだろうか…石なんかを積んで重量を増してやればかなりの突進力が生み出せると思うんだが…それにいつの日か火薬が手に入る時が来れば火薬を積んで…

 いやいや、それでは押して行く者達が引き上げる時の安全性が確保出来ないか。特攻兵器は宜しくない。せめてマイアーレ(※後書き参照)程度の安全性は担保しないとな。


 前回同様、最後の坂を力を振り絞って上って来た男達は門の脇に置かれた一號改を不思議そうに眺めながら荷を運んで行く。

「三太。見事な動きだったな。物見の経験が有るのか?」

帰って来た男達に声を掛けながら、前回同様最後尾に付いていた三太にそう声を掛ける。

「は、はい!俺のすばしっこさは村じゃちょっと知られたんで。戦の時にはしょっちゅうやらされてました。」

ちょっと誇らしそうにそう答える三太。

「この村の者達はちゃんとした戦の経験が有る者がおらん。皆の手本になる様に頼むぞ!」

「は、はい、はい!」

三太は感激した様子でそう答えてから足取りを軽くして荷を運んでいった。その後ろをいつもの様にニコニコと弟の四太が付いて行く。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※

今回は作者の趣味に走った話でした。生温く読んで頂ければ…

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