21・資材不足

「ここは地面の硬い場所が多いんです。それだと、設置出来る場所に制限が出来てしまいます。」

「しかし、それだとそれぞれの場所専用の物が必要になる。全部同じなら立て篭もりながら新しい物を用意する事も出来るはずだ。」

門の前で鍛治の茂平と意見がぶつかる。

 横では門に据え付ける扉代わりの竹柵を、地面に座り込んで縄で縛って組み立てている男達が不安そうにこちらを見上げている。

 脚の幅を等間隔にした共通の規格で柵を製作する事を指示した俺に対して、茂平が地盤を理由にそれぞれの場所の地盤に合った幅での製作を提案し意見が対立しているのだ。確かに崖を無理矢理削り取って作った九十九折りの坂道は大きな岩が地面を覆っている様な場所も其処彼処に見受けられる。一理ある意見ではある。

 しかし、他人と目線が合わせられず、会話も成り立たない事の多い茂平だが、仕事の事になると豹変する様で、俺に臆する事無く意見をしてきた。

「確かに、今の様に余裕の有る場合は差込み穴を先に設置してその幅に合わせて柵を作った方が早いだろう。しかし、戦の合間に、どこから矢が飛んで来るか分からない状況で色々な形の柵を持ってここはこれなんて悠長な事はやっていられんぞ。自分が行くと考えたらどうだ?」

「それは、まぁ…」

「では、地面を確認しに行こう。適当な場所があれば揃いの幅で良いだろう?」

「そうですね。それが良いかと思います。」

俺と茂平と千次郎で最後の坂道を見て回る。

「これなら三箇所は設置出来そうだな。」

「そうですね。でも、下は良いんですか?」

「取り敢えず最後の坂だ。それより下は上から弓や石で狙えんしな…時は多少稼げるだろうから無意味ではないが竹に限りがあるから今はこれで我慢しよう。」

「分かりました。確かに門周りと柵を三つ作ったら竹は余り残りませんからな。」

「いや、柵は四つだ。雛形として一つ保管する。」

「あぁ、成程。では、ささっと作ってしまいましょう。」

やる気に満ち溢れた茂平に押される様に、三人で竹を縛って柵を作って行く。大した作業量では無いので割とすぐに組みあがる。

 坂道の幅は概ね一間(約1.8m)には届かない程だ。大体両手を広げたより少し広い位と考えれば理解しやすいだろう。良くも、切り立った崖沿いに一間弱もの幅の道を切り拓いたものだと思うが、馬に荷を積んで上り下りするにはこれ位必要だとも思う。節六つで切っておいた竹がぴったりの長さだ。余った長さは崖の外に張り出す様にしてやれば柵を横から回りこむ事も防止出来る。

 縦の棒も地面に嵌め込む部分を二尺として設計すれば、一間の竹で作れば地上部は四尺(約120cm)で人の肩位の高さは確保出来る。柵として最低限の機能と考えれば十分のはずだ。


「すまん、一度手を止めて穴掘りを手伝ってくれ。」

門を組み立てている利吉、竹丸、嘉助を連れて柵の設置地点に穴を掘る。底を突き固めて砂利を敷くべきか…いや、しかし大した重量が掛かる訳ではないし…いやでも、引き倒される事を考えると脚全体を砂利で覆っておいた方が抵抗が増すのか?いや、でも手が足りないな…これはいつかやるリストだな。

 軽く穴の底を突き固めて差し込み穴用の竹を、嵌めて固定した柵ごと立てて穴を埋め戻して行く。足で踏み固めた後、タコでしっかりと突き固める。斜めに地面を固めるのは思いの外大変だ。三箇所に柵を設置し終わった頃には皆汗だくになっていた。柵を組むのはあんなに簡単だったのに…


 門まで戻り、水を飲みながら休んでいると御婆と柳泉が交代している。もう昼だ。慌てて六人で門の残りを組み立てる。

 六人で掛かると門扉もすぐに組み上がる。そもそも門の部分でも道幅は坂と変わらない。こちらは十二節の竹を縦の棒に使ったので地上部の高さが一尺半程あるので当座は凌げるだろうと考えている。

 構造としては柵と同じで地面に差込用の竹を埋め込む方式だ。違いは縦棒に使った竹の太さが圧倒的に太い事と横の棒は登り辛い様に間隔を広く取っている事。それから、中央に見張りや少人数の出入りの為の刳り貫きを作り、小さな柵を重ねて塞ぐ方式にしてある事だ。

 ついでに竹はしなるので、半分に割った竹を門柱に縦に打ち付け撓りを抑える事にした。

 組み上がった門を立てようと考えていると草刈に向かった面々がやってくる。昨日の事もあって今日はあちらの様子を監督させていた祥智も一緒だ。

「大将。お蔭様でこちらはなんとか終わりました。」

八郎がそう報告してくれる。なんだか大将と言う呼び名が広がり始めているんだが…

「そうか、運び込みも終わったのか?」

「はい、皆が手伝ってくれましたのでそちらも全て。」

「よし。では、八郎と満助は明日からの遠出に備えて馬の面倒を見てくれ。それが終わったらお堂で荷物の準備に加われ。三太と四太はこちらを手伝ってくれ。それから祥智、宗太郎を探してお堂に連れて来ておいてくれるか?」


 皆に指示を出して人員も増えたので、いよいよ門を立てる。流石にここは下に砂利を敷いた方が良いだろう。皆で東の川から石を拾って来て底に敷く。とは言え、場所柄細かな石は多くないがこればっかりは仕方がない。子供達には早瀬川に小石を拾いに行かせるべきだったかもしれん。

「悪くはないのではないか?」

「そうですね。ただ、下は良いですが、上の方は固定されている訳ではありませんから引き倒そうとするとどうなるか不安が有ります。」

俺の問いに千次郎が問題点も指摘してくれる。

「確かにそうだな。しかし、現状ではこれで一度満足するべきだろう。これ以上するには何もかも足りん。」

「そうですね。上の方を固定しようと思うと大変そうです。」

「因みに柱の上に滑車を付けて門を上に引き上げる様にしたいんだが出来るか?」

そう聞くと、茂平の方が申し訳なさそうに、

「出来るかと言われれば出来ますが、縄が足りません…残りの縄を全部使って良いなら…」

「そうか…それは宜しくないな…」

竹、石に続いて縄も足りないのか…縄の材料は藁だ。そして、藁も潤沢ではないときたものだ。かと言ってわざわざ買い求めて来るかと言われれば、その手間で食料を買うべきとなるだろう。侭ならないものだ…

 取り敢えず、買出しの間に女衆には縄を作って貰わねばならないな。いや、でも雪が降る前に落ち葉を集める方が先か…

「あのぉ…」

そこに恐る恐る三太が声を上げる。

「うん、どうした?」

「こんなにすかすかじゃあ、簡単に登れちまうんじゃ…」

三太は三太なりに考えて聞いた様だ。

「うん、では登ってみろ。」

「へ、へい…」

そう言われて門に取り付いて登り始める三太。一段目の横棒に片脚を乗せ、反対が地面から離れた瞬間。

「ぐさっ!」

そう声を出しながら余った竹で軽く突いてやる。

「ぎゃー!!」

大袈裟に叫び声を上げながら門から飛び降りる三太。なかなかノリの良い男だ。

「刺し放題ってことか。」

「そう言う事だ。まぁ、向こうからも刺し放題なんだが、そこは別に考えがある。」

「成程なぁ…」

納得した様子でそう言う三太。他の者も似たり寄ったりの表情を見せる。唯々諾々と従っていたが、実際の効果が分かったって所か…これはある程度こちらから見せて行った方が良いな。

 宗太郎や柳泉は疑う事無く従ってくれているが、他の者は命じられたからやっているに過ぎない状態なのだと実感する。

「良し。ここまでにしてお堂で明日からの旅支度をする。御坊、後は頼みますぞ。」

「畏まりました。」

門の外で見張りをしながらもこちらの作業が気になって仕方の無かった様子の柳泉を後に残し、男衆を連れてお堂に戻る。

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