11・返る場所無き者
予約投稿の日時が一日ずれており、昨日は投稿出来ていませんでした。失礼しました。
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さて、皆が動いたからと言ってやる事が無くなった訳ではない。まずは、捕らわれていた六人の下へ行き話をする。
「聞き及んでいるかもしれないが我等はこの地に残る事になった。遠濱へ送ってやる事は出来んが、故郷へ帰るなら数日分の食料は渡す。今夜はここに泊まって、明日にでも気を付けて帰って欲しい。」
俺がそう言い終わるや否や、
「あ、あの!私をここに置いてくれませんか!?」
唐突に声を上げたのは捕らえられた者の一人で、賊の人数を答えてくれた女だった。二十歳手前だろうか。薄汚れてはいるが割と整った顔立ちをしている。
「ここにか?ここに残っても食うや食わずになるのは目に見えているし、賊に襲われる回数だって遠濱に比べると遥かに多くなると思うぞ?」
「帰っても新しいお母ちゃんに嫌われてるし…」
俺の問いにそう悲しそうに答える女。
継母の所に戻る位なら明日をも知れぬ村の方が良いとは、どんだけ嫌われているんだと思わなくもないが…
「あ、あの、家は機織をやってたから!麻布が織れます、お役に立てると思います!!」
俺の沈黙を役立たずは要らないと言う意味で受け取ったのか、女が慌ててそう言い足した。
「御坊。この村に織機はありますかな?」
確かに布が自給出来るとなると助かる。しかし柳泉の答えは、
「先年の襲撃で館と一緒に燃えてしまいました…」
と言うものだった。だが、女は諦めず、
「それでも
え?
「麻布って苧から作るのか?」
苧って言ったらあれだぞ。ばあちゃんが「まぁた、からむしが生えて…」とぶつくさ言いながら草刈していたあのすごい勢いで生えてくる雑草だろう?
「は、はい…青苧とか言ったりもしますけど…苧から作ります。」
青苧!?青苧ってあれだろ?越後上布とかの材料になる高級繊維だろ?上杉謙信の資金源だったて言うあの…
「そ、そうなのか…知らなかった。ちなみに一人辺り一年でどの位の量織れるんだ?」
「えっと…とにかく糸を紡ぐのに手間が掛かるので、一人だと一反出来れば多い方だと…」
成程、その辺りも高級品の由縁か。だが、繊維が自給出来ると助かるな。どう考えても手が足りないから人は増やしたいと思っていたし…
「お、俺も置いてくれ!!」
俺が受け入れに傾いていると感じたのか男も一人、そう言いだした。
「お主は何故帰りたくないのだ?」
そう聞くと、
「俺は馬借で馬士をしていたんだ…」
馬借とは民間の運送業者だ。馬借頭を頂点に組織を作り、馬を多数保有している。馬士と言うのは実際に運輸の現場で馬を連れて働く者の事を指す。つまり下っ端の現場労働者だ。
旅の中で移動のついでに何度か商人の荷の警護を請け負った事があり。実際に輸送を行うのは商人ではなく、仕事を請けた馬借である事も珍しくなかった。
「それが何故?」
「あいつ等が乗っていた馬は俺が荷を運んでいた馬なんだ…それを道中で襲われて捕まっちまって…馬も積荷も盗られちまったんだ。ノコノコ帰った所で頭に何をされるか分かったもんじゃない…だから、お願いだ!ここに置いて下さい!」
成程…商人の隊列は賊からしたら格好の目標だ。それ故、我等の様な者は護衛として重宝された訳だが。
因みに、その盗られた馬と積荷は更に我等に分捕られた訳だが…流石にそれを返してくれとは言い辛いのだろう。
「あの…俺も…」
更にもう一人。まだ若い。俺と同世代だろう。
「お主は何故だ?」
なんだか会話が短文になって来ちゃったじゃないか…
「大工の親方の所に跡継ぎとして養子に入ったんですけど…俺が養子に入ってすぐに子供が生まれて…」
あぁ、なんてベタな展開なんだ…しかし、織師に馬借に大工か。正直専門職は喉から手が出る程欲しい。
「御坊、どう思われる?皆、専門的な技を持っているし某は受け入れても良いと思いますが。」
「そ、そうですな!しかし、食い物が…」
自分にお鉢が回ってくるとは思っていなかったのか慌てた様子で柳泉がそう答える。
「飯に関しては少し考えがございます。数人でしたらなんとかなるかと。」
「そ、それでしたら、拙僧から申し上げる事は御座いませぬ。お任せ致します。」
そう柳泉の同意も取り付けた時、
「お、俺は帰るぞ!」
先程から不満を声高に言っていた男が流れに割り込むようにそう叫んだ。
「無論だ、最初からそう言ったおるであろう?」
むしろお前はいらん!
「お、俺の家は名主だぞ!こんな所に居る様な人間じゃないんだ!!」
俺の答えを聞いていなかったかの様にそう捲し立てる男。
「だから好きに帰って貰って構わんと申しているではないか。」
俺が呆れながらそう答えると。
「大体貴様は何なんだ!ここは佐高様の御領地だぞ!!それを好き勝手に差配する等と!!」
ふむ、助かって心の箍が外れたのか、抑圧されていた怒りが表出した様だ。だが、これは余り上手く無いな…
「勝手にではない。俺はこの村の者に請われて力を貸している。客将の様な物だ。何ら問題あるまい。」
俺はそう説明するが、
「五月蝿い!必ず守護様にお伝えするぞ!!」
たかが名主の家族が守護に目通り出来る立場とはとても思えぬが…今、我等の事を外に知られるのは面白くないな。さて…
そんな空気を打ち破ったのは、一番身形も体型も貧相な男だった。
「な、なぁ!ここなら小作じゃなくなれるか!?」
しかし、次は小作か…
「そもそも、ここじゃ誰も腹一杯食えないぞ。家族も親族も居らんここに残る事はあるまいと思うがな。」
俺がそう諭すが、
「村に帰ったら小作だ。あんたの為に働くからここに置いて下さい!!」
そんな言葉に反応したのは先程の自称名主。
「なんだと!!家の小作の分際で何勝手な事を言ってるんだ!!」
なんと関係者だった。
「ふざけるな!手前ぇが家宝の刀がとか言って無茶してヘマこいたから捕まったんじゃねぇか!!もう、手前ぇに扱き使われるのはまっぴらなんだよ!!」
「なんだと!!もう一編言ってみろ!!」
唐突に勃発する労使間闘争。そう言えば賊の頭がそれなりの刀を差していたか。
「よさぬか。お主には約束通り食い物を分ける故、明日の朝一番で出立なされよ。その者はこちらで引き取ろう。」
止めに入るが、
「そいつ等は家の小作だ!!」
そう譲らない。
「しかし、ここまで拗れてはお主もこやつ等に安心して田を任せられまい。無理に連れて返っても要らぬ苦労をするだけだと思うが?」
そう攻め方を変えてみると、
「ぐぬぅ…そうだな、こんな奴の代わりはいくらでも居る。こんな痴れ者帰って来ない方が良いわ!」
そう言い捨てる。
「よし、ではお主はここに残ると良い。そっちのもう一人は?」
小作の男の後ろに隠れる様にいる最後の一人は、そう言えばここまで一言も発していない。
「お、弟だ。こいつも置いて欲しい!」
ふむ、
「御坊。見た所、田畑も手が足りていない様ですし。この二人も良いですかな?」
「し、しかし、宜しいので?」
自称名主をちらっと見ながらそう訪ねてくる。
「他人の心配よりまず自分の心配を致しましょう。見た所、田畑の手入れをする人数も足りていますまい。」
「それは、確かに…」
渋々そう認めた御坊を横目に、
「よし、では残る者は他の者を手伝って来てくれ。」
「は、はい!」
織師の女がいの一番に返事をして駆けて行く。あの腰の軽さは期待出来る。
「ほら、男共も急げ。」
俺がそう急かすと四人も慌てて女の後を追った。
「俺はやらぬぞ。」
自称名主はそう言って座り込んだままだ。
「晩飯はどうする?」
「要らぬ!」
それは米が節約出来て助かるな。
「そうか。では、門に一番近い家を使うと良い。明日の夜明け前に米を届ける。」
「…分かった。」
俺がそう言うと憤懣遣る方無いと言った様子でノシノシと門の方に歩いて行った。
その後、柳泉と幾つか確認をすると皆が持ち寄った家財を改めに向かう。
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