42・旅立ち弐

大変申し訳ありません、よりにもよって最終話の予約投稿が上手く行っておりませんでした!!

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 田代の町を出て街道を南へ向かう。与平が気を利かせてすぐに紹介状を書いてくれたので昼前には出立出来たから湊まで駆ける事にした。田代と奥津を結ぶ道は海沿いを東西に通る西国街道を除けば、この国では一番の幹線道路だ。人通りも多いし、道も広く整備されている。湊へ向かうと思われる商人を追い越し、門松に使うのだろう切り出した竹を運ぶ農民とすれ違う。皆、師走の忙しいながらもどこか浮ついた雰囲気を感じられる。

「なぁ、、、結局、、、名前、、、決まったのか?」

「馬鹿野郎、、、走りながら、、、喋らせるんじゃねぇ。」

小走りに街道を進みながら松吉が聞いて来る。話が出来ない程の速さで走っている訳では無いがそれでも余計な疲労は避けたいのだ。


 半刻(一時間)程も走れば宿場が見えて来る。田代と奥津は五里(一里約4km)程しかない。朝出れば夕方には到着出来る為、ここは宿場と言っても泊まり客は多くない。その代わり、道中で脚を休める者達が引っ切り無しにやって来る。

 茶店なんて立派な物は無いが(そもそも、まだ茶が一般にはほとんど広まっていない。)、それでも餅や団子を軒先で売る家が有り、白湯と共に提供されている。

「それで…名前は?」

串に刺さった団子を頬張りながら松吉が聞く。勿論、餡なんて高級な物が付いている訳は無く、薄く味噌を塗って焼いてある。

「まぁ、一応考えた…通字はよしにしようと思う。松吉の希望通りで考えたのは祥鳳よしたか、祥虎、祥龍だ。鳳でたかと読ませる先人が居たのを思い出してな。」

地面に食べ終わった団子の串で字を書きながら説明する。因みにここには椅子なんて物も無い。団子を買った店の道の反対側の地面に座っている。しかし自分で書いてて祥鳳って空母みたいだなと気付く。

「おぉ、良いじゃないか!俺の希望通りだ!!しかも鷹の音も入ってる。」

松吉が目を輝かせて答える。

「でもちょっと大袈裟過ぎませんか?」

「いや、俺もそう思うんだよな…特に自分の名前が恥ずかしい…」

霧丸の指摘にそう答えると。

「そう言われてみると確かに大袈裟かもしれない…他にも考えたのか?」

松吉も確かにと言った表情で他はないのかと聞いてくる。

「お前は祥猛よしたけってのを考えた。武が得意だしな。猛の字はそのまま武でも良いかもしれんな。」

「おぉ、それも良い!!」

松吉が又も目を輝かせて答える。

「霧丸は商いとか計算が得意だから祥計よしかずはどうだろう。いや、武に対して文と考えれば計ではなく知の方が良いか。」

「それなら知の方が良い。」

霧丸はそう即答した。

「そんで、若、じゃないや兄者はどうするんだ?」

「うん、俺は祥治よしはるにしようかと考えた。死んだ爺から一文字貰った。」

俺がそう答えると、

「もう、それで良いよ。霧丸も良いだろ?」

「うん、良いんじゃない?じゃあそろそろ行きましょうか。」

二人はなんともあっさりそう言うと立ち上がって歩きだした。

「いや、俺のはこれで良いかもしれんが二人の名前はもっとゆっくり考えたって良いのだぞ?そもそも祥の字にだって俺は拘りは無いんだ。他の字を考えたって。」

そう言う俺を置いて二人はさっさと行ってしまう。

「…良いのかな?」


「そう言えば、姓はどうするんです?」

団子を食べた直後なので走らずに歩いているときりま…じゃなかった、祥知にそう聞かれる。

「うーん…色々考えたんだけど鷹山で良いかなと。三人だから三鷹と言うのも考えた、どちらが良い?」

「たかやまよしたけ、みたかよしたけ、たかやまよしたけ、みたかよしたけ…うーん、鷹山!!」

祥知と目を合わせて苦笑いする。

「じゃあ、そうしよう。」

俺がそう言うと、

「俺は鷹山祥猛だ!あはははは!!」

祥猛は担いでいた槍をブンブン振り回しながら楽しそうにそう笑った。

「髪はどうしますか?」

祥知がいきなりそう聞いてくる。髪ってなんだ?

「月代とか…」

俺のぽかんとした顔を見て、ちょっと微妙な表情でそう言い足す。

「「あぁ…」」

そうか、それがあったな。今の俺達の髪は肩までの長さの髪を紐で後ろで縛っただけだ。要するにポニーテールである。この時代は子供は所謂おかっぱかと想像していたんだが、俺の周辺では身分問わず割りと適当だった。男女問わずに大体後ろで縛っている奴が多い。結ぶ高さに個人差がある位か。

「お前達だから言うがな。月代って…格好悪くないか?」

恐る恐るそう言ってみる。この時代では武士の多くは月代を剃っている。だが何年経っても俺はあれが受け入れられないのだ。

「やっぱり!?若もそう思うよな!?」

我が意を得たりとばかりに祥猛が顔を輝かせて振り返る。興奮し過ぎて呼び名が若に戻っているじゃないか…

「なんなら俺は髷も嫌だ…」

更には祥知からも衝撃の発言が飛び出した。

「なんだ、俺だけじゃないのか。よし、俺達はこのままで行こう。」

「そうだな、俺達はこのままだ。」

「そうですね、そうしましょう。」

この時代に生まれた人間もちょんまげは嫌なんだ。これは心が軽くなるな。


 夕暮れ直前には奥津の湊に着いた。まだ明るいので与平から紹介された濱中屋と言う廻船商の元を訪ねる。

「ほう、あんたがあの…」

与平からの紹介状を読んだのは海の男のステレオタイプの様な声がでかくて日焼けした男だ。濱中屋大次郎、それがこの男の名前だった。

「三州まで乗りたいなら一人十貫だ。払えるのか?」

高っ!!疑わしそうに聞く大二郎の問いに思わず意識が飛びそうになる。

「ほら…」

なんだかその態度にちょっと腹が立ったので椎茸の小袋を投げて渡す。

「ふむ、これなら二人分はまけてやろう。十貫で良いぞ。」

袋を覗いてからまたもや偉そうに言うので、

「銀で良いか?」

こちらも少し態度を硬化させてそう聞く。

「構わないぜ。」

懐から銀の小粒を十個取り出し渡す。

「よし。じゃあ明日の朝一番にまた来い。お前等ついてるぞ。明日が今年最後の船だからな。」

そう言うとさっさと奥に引っ込もうとする。

「おい待て、証文を書け。」

「証文?」

驚いた様に振り返る大二郎。

「明日来てもう一度運賃を払えなんて言われたくないからな。書かないなら渡した物を返せ。明日乗る時に渡す。」

「ワハハハハ、しっかりしてるな坊主。そうだな、一度返そう。証文を書くのは面倒だしな。あ、そうだ、水は出してやるけど食い物は自分達で用意しろよ。」

そう言うと椎茸と銀の小粒を俺に返すとまたさっさと引っ込んで行った。


「海の男はやはり俺達とは違う感じがするな。」

今日の宿を探しながら俺がそう言うと、

「そうですね。なんと言うか…俺達とは違う国の人みたいですよね。」

祥知がそう答える。そこに、

「って言うか、一人十貫って高すぎないか!?」

祥猛が叫ぶ様に言った。きっとあの場では我慢していたのだろう。

「きり、じゃないや、祥知が何も言わなかったから相場なんだろうが確かに驚く程高いな。」

「いや、あれでも大分安くしてくれてるんだと思います。馬の分は要求されなかったし。」

「そうなのか…与平に感謝だな。」

ちょっとうんざりするな。あれじゃ船に乗って移動する人間なんてほとんどいないだろう。まぁ、安全とかスペースの確保とか色々あるんだろうが…

「どうする?歩いて行くか?歩いたって行けるんだろう?」

堪らずそう提案する祥猛。

「うん、公家でも貧乏な人は結構歩いて来るから歩いて行っても良いと思います。」

祥知もそう言って背中を押す。

「いや、折角の門出だ。ここは豪勢に船で行こう。懐に余裕がある内に乗ってみたいしな。」

そう答えると俺達は与平が良く使うと言う宿へ一晩の宿を求めて入った。


 夜明け後すぐの朝凪になる直前の弱い陸風に乗って一本の帆柱に四角い帆を張った船が静々と湊を出る。船尾の甲板上で徐々に遠ざかる芳中の国を三人で眺める。頂に雪を被り始めた奥実野の山々、そしてその手前に見える前実野の山々。もう二度と目にする機会は無いだろう。そう思うと色々と込み上げて来るものがある。脇に立つ二人もそれぞれに思うところがあるだろう。湊が見えなくなっても俺達三人を見送る様に見えていた奥実野の山々も暫くすると島陰に隠れて見えなくなった。漸くそこで俺達は後ろを眺めるのをやめると今度は舳先に移動して船の行く先を飽きずに眺めるのだった。



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 お付き合い頂きましてありがとうござます。有り難い事に多くの方にお読み頂いた二章はこれにて完結です。なぜかこれだけ下書き設定のままになっており投稿できておりませんでした申し訳ないです。

 三章は現在鋭意製作中の為、公開まで暫くお時間を頂戴する事になります。

 励みになりますのでフォロー、評価を頂ければ幸いです。また、サポーターの皆様には改めてお礼申し上げます。


 また、本日この後、近況ノートに作者の二章に対する補足的な内容の投稿をする予定です。言い訳的な内容ですが興味があればご覧下さい。

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