閑話・届かぬ想い

 今日も良いお天気。毎日は行けないかもしれないって言われた川だけど、今日も皆で遊びに来られた。それは、面倒を見てくれるお爺やお婆達が他の集落のお爺やお婆と会ってお話出来るのが楽しいから毎日でも良いって言ってくれたからだ。やっぱりお年寄りでも楽しいのが好きなんだ。

 冷たい水の中で皆と遊んでいるとすぐお昼になった。楽しくてすぐに時間が経っちゃうけど昨日からちょっと心配な事があるんだ。去年とっても優しくしてくれた好ちゃんっていう子が来ていない。他にも何人か来ていない気がする。年上の子達はお手伝いで来られない事になったけど好ちゃんは確か蔵丸とか朝ちゃんと同い年のはず…どうしたんだろう…好ちゃんは落合の子だ。他の落合の子に聞いてみよう。

「ねぇねぇ。」

「あれ、梅様。どうしたの?」

落合の子の中で一番年上の子に声を掛ける。

「よしちゃん、なんでこないかしってる?」

あたしがそう聞くとその子はちょっと顔を曇らせて、

「この間の戦で好ちゃんとこの父ちゃん死んじゃったんだ…それから好ちゃんずっと元気なくて。昨日も誘ったんだけどね…」

戦で死んじゃった人が沢山いるって言うのは知ってたけど、好ちゃんの父ちゃんもそうだったんだ…きっとこの間までの兄上みたいに元気が無くなっちゃってるんだ。行かなくちゃ。あたしは皆に元気になって欲しいんだ!!

「くらまる。あたし、よしちゃんむかえにいってくる!」

「え?一人で行けるの!?」

「だいじょーぶ!!」

一番年上で子供達を纏めている蔵丸にそう言って川から上がる。体を拭いて着物を着てから草鞋を履いて走り出す。

「おや、梅様。どちらへ行かれます?」

松吉のお婆が聞いてくる。

「おともだちのところ!!」

そう答えて走り抜ける。


 どこだっけ…前に兄上と落合の爺の所に遊びに行った時にたまたま好ちゃんのお家の前を通ったんだ。そうだ、爺ももういないんだ…急に悲しくなって来た。兄上も好ちゃんもこんななのかな…

 このお家だった気がする…開けっ放しの玄関からそーっと中を覗いてみる。そこにはションボリ座っている好ちゃんが居た。

「よしちゃん?」

「え?梅様?」

吃驚した様に好ちゃんが顔を上げる。好ちゃんだ。ちょっと悲しかったのが一気に嬉しくなる。

「あのね、あのね!!みんなにげんきになってほしくてかわであそべるようにがんばったの!!よしちゃんもいこう!?」

あたしは勢い良く好ちゃんにそう言った。

「私はいいよ…」

「でも、きっとたのしいよ?いこうよ!!」

「あたしの父ちゃん帰って来なかったの!!梅様は父ちゃんも兄ちゃんも帰って来たんでしょ!?梅様にあたしの気持ちなんてわかんないよ!!もう来ないで!!」


 気が付いたら河原に戻る道をトボトボ歩いてた。涙がポタポタ落ちる…怒らせちゃった…何がいけなかったんだろう…

「あらあら、梅様。そんなに泣いて、どうされました!?」

松吉のお婆があたしに気が付いて慌てて声を掛けてくれる。

「おこらせちゃった…」

あたしが泣きながらそう答えると、

「うめしゃま、だいじょーぶ?」

遥太郎が心配して川から上がって来た。他の子も集まって来てしまった。その後、なんとなく今日はおしまいになってしまった…皆に悪い事しちゃった…

 朝ちゃんと手を繋いで中之郷まで帰る。そこからは一人で歩かないといけない。一人になってまた泣いちゃいそうになるけど、どうしたら良いか考えなきゃ…やっぱり誰かに相談しよう。母上かな…兄上?母上に言ったらまた怒られちゃうかな?でも兄上に女の子の事を相談するのはちょっと不安だな…取り合えず紅葉丸の兄上に聞いてみようかな。


「…もみじまる、のあにうえ?」

部屋を覗いて声を掛ける。

「ん?どうした?目が真っ赤じゃないか。」

「あのね、よしちゃんをおこらせちゃったの…」

部屋の入り口でそう言うあたしに、

「そうか、とにかくお入り。」

「うん…」

そうして、あたしは紅葉丸の兄上に今日あった事を話した。

「うーん…とりあえずちゃんと謝るのが大事だと思うけど、俺じゃあちょっと力不足だなぁ。兄上に相談しよう。」

そう言うと兄上の部屋に向かって歩き出した。大丈夫かなぁ…

 あたしは兄上の部屋でもう一度同じ話をした。話を聞いて兄上は、

「紅葉丸の言う通り、まずは謝る事だな。ただ、どうして怒らせてしまったか考えるのが先だな。」

「うん…どうしておこっちゃったんだろう…」

「梅はどんな様子で誘ったんだい?」

紅葉丸の兄上に聞かれる。

「えっと…いくときにしんじゃったひとのことをかんがえてたらかなしくなって、でもよしちゃんみたらうれしくなって…」

「うーん…それかなぁ?」

「そんな感じだな。」

二人がそう言う。

「梅。多分、お前は好に会えて安心したし嬉しかったんだろうな。だからきっと笑顔で誘ってしまったのだ。」

「そ、そうかもしれない…」

「もし、梅が悲しくて泣いている所に誰かが笑いながら来たらどう思う?」

「あ…」

それはとても悲しくて悔しいかもしれない…

「あしたちゃんとごめんなさいしてくる…」

「そうだな、それが良い。それからもう一度、梅がどうして好に川に遊びに来て欲しいと思っているのかを伝えると良いさ。」

そうだ、あたしは好ちゃんに元気になって欲しいんだ。今日は行けなかったけど他にも来てない子が居た。その子達のお家にも行かなくちゃ!!

「やっぱりあにうえはすごいね。どんかんさんだとおもってごめんね!!」

あたしはそう言って兄上の部屋から飛び出した。

「…え?」

「ありがと~!!」

「え?え!?」


 次の日、川に行く皆と別れて好ちゃんの家に行く。昨日みたいに玄関から中を覗いてみたら好ちゃんはやっぱりそこに居た。

「…よしちゃん?」

「あ…」

あたしがそーっと声を掛けるとよしちゃんはちょっと悲しそうな顔をした。

「あのね、あのね、きのうはごめんなさい…よしちゃんにあえたらうれしくなっちゃって…あたしね、よしちゃんにげんきになってほしいの。だからかわでまってるから!!きたくなったらきてね!!」

あたしはそう言って駆け出した。嫌だって言われるのが怖くて答えを聞かずに最後は逃げちゃったけど、ちゃんと伝わってると良いな…さぁ、他の子のお家にも行かなくちゃ!!


 あれから大分経った。上之郷でも狭邑でも山狩りをやって皆でお肉を食べた。怪我をしていた人達もちょっとずつ良くなっているみたいだ。来ていなかった子達も何人かは川に来る様になった。でも好ちゃんはまだ来ない。早く元気になると良いな。やっぱりもう一回誘いに行ってみようかな。

 そんな事を考えていたら川に向かって誰か歩いて来る。あたしは慌てて駆け出した。

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