12・何でも売り物にすると思ってやがるな…

「ククク…クハハ…アーッハッハッハ!!」

やった、やったぞ…ついに上手く行ったぞ。六年も掛かったが、それだけの価値はあるはずだ。

「わ、若様、どうなさいました!?」

俺の高笑いを聞いた源爺が慌てふためいて飛んでくる。

「こ、これは!」

俺の視線の先を見て源爺が絶句する。

「良いか源爺。これは秘中の秘だ。誰にも言うな。父上にもだ…」

「と、殿にもですか!?」

「そうだ、これが外に漏れれば味方からも狙われかねん。守護代様辺りから秘密を教えろなんて言われたら断るのは難しい。」

「それはまぁ、そうですが…」

「良いな、絶対だからな…」

俺は再度念を押す。


「兄上、開墾と言うのは大変なものですね。」

朝晩の冷え込みが大分緩み領内では田起こしが始まったある日、慣れない手つきで鍬を振るいながら紅葉丸がそう言う。

「うむ、しかし、農地が増えれば民が増やせる。何をするにも民が必要だ。なにより民は大切にせねばならん。」

俺は大分慣れた鍬を振るいながら答える。

「しかし、ここは畑ですよね。」

「それを言ってくれるな…民だって田に出来るところは真っ先に開墾しているのだ。山之井には平地が少ない。これを如何するか今後の課題だな。」

紅葉丸め、痛い所を突いてくるな。

「しかし、平地は増えませんよ。どうするのです?」

「うん、唯一考えられるとしたら現在畑になっている場所を田に変えることだろうな。」

「そんな事が出来るのですか!?」

「簡単ではないがな。まず、川から水を引く水路を掘る。地形をしっかり調べてきちんと水が流れるようにせねばならん。」

「川を増やすようなものですか?」

「まぁ、そうだな。だが水の量は変わらんからな。水路に水を引いた結果、今までの田に水が足りないなんて事になってはいかんぞ。」

「そうか…」

「それと田は水捌けが良い土地ではいかん。水が貯まらんからな。場合によっては土を入れ替えねばならんかもしれん。」

「大事ですね。」

「そうだな。今は城の普請もある。人手を増やす為の人手が足りんのだ…」

「儘なりませんね…」

「全くだな。」


「若様、一休み致しましょう。」

小屋から源爺が出てきて言う。

「うん、紅葉丸。一休みだ。」

「はい。」

「源爺、今日はなんだ?」

「昨日、栗餅を作りましたので暫くは栗餅です。」

「やった。」

紅葉丸が歓声を上げる。

「今日は暖かいから縁側で頂くか。」

「そう致しますか。」

縁側に腰掛け、蒸したての栗餅と白湯を頂く。

「畑も大分形になってきましたな。」

源爺が感慨深く言う。

「兄上、ここでは何を育てるつもりなんです?」

「うん、とりあえず出来ている部分は蕎麦を植える。それが終わったら麦だ。今やっているところは大豆だな。」

「蕎麦ですか…」

そう、蕎麦は不人気なのだ…この時代、現代のような蕎麦切り(麺としての蕎麦)はまだ一般的ではなく、蕎麦といえば専ら蕎麦がきだ。これが特に子供にはイマイチ人気が無いのだ…前世でも蕎麦好きだった俺は蕎麦がきが大好きなのだが…

「ここでは米が作れん。野菜だけでは人は生きて行けんからな。」

「それはまぁ…そうですけど。」

美味しいのになぁ…


「それからな、苺が増やせないかと思ってな。」

「え?苺を増やす?」

「うん、挿し木で株分けして増やせないかと思ってな。この後、やってみようと思うから手伝ってくれ。」

「分かりました。」

小屋を建てた時の端材で作って貰った即席のプランター状の箱を三つ縁側の横に設置して開墾した畑から土を運ぶ。本当は腐葉土とかが良いんだろうが、如何せん源爺の隠居が急すぎた為にそこまで手が回らなかったのだ。それが済んだら苺の群落に行き健康そうな葉を着けた茎を小刀で斜めに切る。一株からまとめて採らずにあちこちの株から少しずつ採る様にした。

「兄上、茎をどうするのです?」

「うん、これを半刻程水に漬けてから土に挿すと切ったところから根が出るらしい。俺も聞いただけだから上手く行くかは分からんがな。」

「茎から根が出るのですか?」

「うん、そうらしい。不思議なものだな。」

半刻(1時間)後、プランターの土に指で穴を開け、水から出した茎を挿して土を被せる。

「源爺、日が沈む前に莚を掛けてくれるか?」

「分かりました。朝になったら日に当てれば良いのですな?」

「うん、ついでに水もやってくれ。」


 数日後、一部の葉は枯れてしまったが、半分以上の茎は緑を保っている。これはいけるかもしれない。枯れてしまった分を追加で茎を切って来て土に挿しておく。育った株は半分は地植えにして残りはこのまま鉢?植えにしようか等と考える。

「枯れていないものが根が出たんですか?」

「まだ分からんが、上手くいっているのではないか?抜いて確認するのも怖いからこのままにしておこう。」

「これも売り物にするのですか?」

「うーん…売る程採れるかなぁ?でも春先に食べられる甘い果物は少ないから領内で広く育てられれば皆は喜ぶのではないか?子供達も苺が採れると思えば面倒を見るかもしれんしな。」

しかし、紅葉丸め俺が何でも売り物にすると思ってやがるな…

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