49・日の本
なんという事だろう…思いもよらぬ事実に頭の中が整理出来ない…与平の所で買い物をした後、中之郷の常聖寺に走った俺は、そこで驚くべき事実を和尚から聞く事になった。勿論、先程与平が漏らした「西の都」と言う言葉が発端だ。
結論から先に言おう。
”本州は二つの島に別れてる!!”
”どっちの島にも都があって、どっちの都にも帝と将軍がいる!!”
何を言っているのかさっぱりわからないと思うが、俺も理解不能だった。何度も和尚に聞き直して漸く理解に至ったのだ。
まず、地理的な話からしよう。聞いた話から推測すると、本州は俺が生きていた日本で言うところの、伊勢湾から若狭湾に相当する近辺で東西に分割されて別の島となっているらしい。西側を秋津島、東側を敷島と称するらしい。つまり、琵琶湖も無ければ、関が原も無いという事になる。
和尚の話では、太古の昔、神々の時代に大神と弟神が島の所有を争って引っ張り合った結果、二つに分かれたと言われているらしい。きっと、ウンコを投げた弟と、引きこもりの姉の事だろう。
前世の日本列島の本州は、大陸から千切れた東日本と西日本の二つの島を元にして成り立った島であったはずだ。その間は所謂、フォッサマグナ(大地溝帯)と呼ばれる地域で、最初は島の間の浅い海だったのだが、土砂の堆積や海底の隆起等、色々あって二つの島を繋ぐ陸地になった。こちらの世界も同様と想定すると、二島が接近したが間の海が深く、陸化するまで至らなかった。又は、逆に二島が強くぶつかって、押し潰された真ん中が凹んだ。そんなところだろうか?遙か未来には一つの島になるのかもしれないな。とまぁ、地理的な成り立ちは予測は出来るが真相が分かるのは数百年も後の事だろう。まぁ、分かったところで、この時代では誰も得しないしな。
さて、本州が二つの島に別れているからと言って、別の国なのかと言われれば全然そんな事はないらしい。元来、都が在り、帝がおわすのは西の秋津島。東の敷島は古の時代の東征に拠って服属した結果、両方の範囲を含めて日の本となったらしい。この辺りは前世の日本神話や歴史と大きく変わらないらしい。海を越えるという差があるかどうかだ。
ややこしい事になったのは二百年程前の事らしい。当時の西の都(当時は唯一の都だが)で、新たに幕府を開いた将軍と、帝の間で対立が起こった。結果、帝側の勢力が敗れ、海を渡って東の敷島に逃れたらしい。前世の南北朝がこちらでは東西朝となったわけだ。違ったのは、間に海を挟んだ事に依って戦線が膠着した事だろう。結果、(西の)将軍は新たな帝を擁立し、逃れた帝は新たな都(東の都)を造営し(彼等的には遷都)、新たな将軍を任命したまま、現在に至るらしい。だからと言って、東西で違う国なわけはなく。お互いが正当性を主張しているし。民としては帝が喧嘩している位の認識らしい。それぞれ、西と東を頭に付けて、西の主上、東の都と言った具合で呼び表すのだそうだ。
更に厄介な事にと言うべきか、当然の事ながらと言うべきか、それぞれの島の各勢力が、それぞれの島の帝や将軍の下に纏っている訳は無く。それぞれが好き勝手、てんでバラバラな思惑で動いた結果。東西再統一どころか己の足元も覚束無いという事態に陥っているらしい。要するに、前世日本の戦国時代も真っ青な乱世真っ只中なのである。
幸いにと言うべきか、山之井庄が在る芳中国を含む芳の国は守護家が西の将軍の幕府成立前からの重臣中の重臣。幕府の要職を占める家柄の為か、国内は西側で統一されている。尤も、統一されているのに国内での戦が絶えない辺り、どうしようもないわけだが…
因みに、芳中国は秋津島の中部南岸に位置するそうだ。夏に雨が少ないのも納得である。ようするに瀬戸内気候なのだ。南の海を越えると
色々と衝撃的な事の続いた秋だったが、与平達が去って山之井庄には平穏が訪れた。城の者以外には…
「そっちをしっかり支えろ!!」
どんよりとした曇り空の下、東の尾根に怒鳴り声が響き渡る。普段の源爺からは想像もつかない大声で指示を出している。秋雨の前に建ててしまいたい物見小屋が急ピッチで建てられて行く。俺が頼んだ礎石の上に、兵達が朝から総出で城から運んだ柱が建てられて行く。柱二本を梁で繋いだ状態の物が二組、綱で曳かれて立ち上がる。立ち上がった二組の柱を兵が支える間に、源爺が素早く残りの梁を組んで行く。片流れの小屋なので棟上げなんかはしないでこのまま板屋根を乗せる。屋根を乗せる間に、地面には物見に立つ兵が、毎日来る時に河原で拾って来た砂利を敷いている。加工済みの建材を、人海戦術で組み立てる。今日は屋根まで完成させる予定だ。
昼過ぎには今日の作業を終えた城の者達は、物見を除いて城へ引き上げていく。俺達も城の裏山に入り、椎茸の様子を確認して栗や木通を収穫する。二人が仕掛けた罠も見て歩く。今日は、開始が遅かったので近場で終わらせた。
翌日から、秋の長雨が降り始まった。残念ながら、物見小屋の壁の工事は間に合わなかった。それでも兵達は、屋根があるだけで有り難いと笑いながら物見に出掛けて行った。雨の間は出来ることが少ない。俺は紅葉丸の相手をしながら、手習いの練習をしたり、源爺が取り掛かった橋の改修工事に向けた部材の工作を眺めたり、邪魔した…手伝ったりしながら過ごす毎日になった。椎茸が気になるが、雨の中、山に入る訳には行かない。
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