34・輸送実験
浮き輪は木製でも良いのではないか?でも浮き輪の直径を考えるとかなりの巨木が必要だ。そんな事を考えていた午後の少し早い時間に、永由叔父が迎えにやって来た。
「結局、叔父上が付いてくれるのか。」
「いえ、力仕事は任されましたが、頭を使う時は自分も呼べと…」
「我等二人では、何をするかわからんと思われたかな?」
「某では若様の暴走を止められない、の間違いでは?」
「ぐぬぬ…紅葉丸、今日は帰るぞ。」
「え〜!?まだ〜!!」
「船に乗せてやるぞ。」
「は〜い♪」
大変わかりやすくて宜しい。
近くの河原にある簡素な船着場に川船が一艘繋いである。公園の池の貸ボート位のサイズだろうか?大人三、四人も乗れば一杯になりそうな船だ。高瀬船というのはこう言う奴だっただろうか。
「これは普段何に使っているんだ?」
「川向うに田畑がある者達が、川を渡るのに使っております。ですが、普段は一回り大きい船を使っておるので、これは好きにしてくれて良いとの事です。」
「最初を聞いて慌てたぞ。では皆は一艘で行き来しているのか?」
「いえ、某も知らなかったんですが、これを入れて三艘あるそうです。これは普段しまってあったので知らなかったのです。」
「成程な。ところで叔父上、船は操った事はあるのか?」
「…」
「おい、叔父上…なぜ一人で来たのだ?」
「取り敢えず、俺と紅葉丸が乗ってみる。叔父上は陸から綱を持って横を歩いてくれ。なるべく岸沿いを進む。」
「まぁ、それなら流されることもありますまい。良いでしょう。」
「霧丸と松吉は悪いが、叔父上と一緒に歩いてくれ。紅葉丸来い。」
「ゆれるぅ〜」
不安定な船の上に困惑する紅葉丸。俺も竹竿を持って
「叔父上、少しずつ繰り出してくれ。」
綱が繰り出されるにつれ舳先の舫綱を支点に艫が流れに乗って川下を向く。竿で水底を突いて船を川上に進める。進め…歩いた方が速そうだが、取り敢えず進む。
「若様、ちゃんと進んでおりますな。」
「か、担いで運んだ方が…速いかもしれんぞ。」
「まぁ、今日は試しです故。」
暫く掛かって、狭邑川との川俣まで到着した。丸木橋を越えるのに、一度船を担がねばならない。舳先を叔父が艫を俺達三人で持ち上げ橋を越す。
「橋を越すのは些か面倒ですな。」
「まぁ、今は例え船が流されたとしても、ここで止まるから良いと考えておこう。」
一休みしながらそう話す。
「あにうえ、まだ〜?」
既に船に乗って、準備万端の方がいらっしゃる…
「霧丸、代わってくれ。城の下まで行ったら松吉だ。叔父上、綱をもう一本繋いでくれ。ここからは流れがキツくなる両岸から引っ張ろう。」
河原で霧丸がぶっ倒れている。
「だらしねぇなぁ…」
隣で松吉が喧嘩を売っているが、反応する気力もないようだ。川俣から上は一気に川幅が狭くなり、流れも斜度もキツくなるのだ。小柄な霧丸には、さぞキツかった事だろう。さて、松吉はここから先は更に流れがキツくなる事に気付いているかな?
「紅葉丸、お前はここまでだ。一人で城に帰れるな?」
「え〜!!なんで〜!?」
「船は上之郷に置いて来る。帰りは歩きだぞ?」
「う〜…」
泳いだ上に船ではしゃいで疲れている自覚は有るのか、歩いて帰るのは嫌らしい。唸りながら坂を登って行った。
河原で松吉がぶっ倒れている。
「だらしねぇなぁ…」
凄い!!こんな綺麗なブーメラン見た事ないよ!!
「おい松吉、船を陸に上げるぞ。お前も持て。」
「無理…」
船を流されない場所まで上げたら解散だ。
「良し、今日はここで解散だ。俺は大叔父の所に寄って行く。叔父上も来てくれ。」
「若鷹丸、それに永由まで急にどうした?」
大叔父と忠泰叔父が、急な訪問に驚きつつも応対してくれた。
「実は炭を焼いてそれを炭を船で三田寺に運べないかと考えている。目処が立てば、民に冬場の稼ぎ口を作れると思ってな。ついでに炭の一部を使って、山之井に風呂を作りたいのだ。」
「某も作りたいのです。」
心が一つになった瞬間だ。
「…永由、お主そんな奴だったかの?」
大叔父が呆然と聞く。
「人が変わる程の体験でした。普段から風呂に入りたいのです。」
「わ、わかったわかった、それで、何をどうするのじゃ。」
「取り敢えず落合で一番小さい川船を、そこの河原まで曳いて来た。明日、荷物を積んで川を下れるか試してみたいので、炭俵を貸して欲しい。朝一番で館の者で、六つばかり河原に運んでおいてくれないか?」
「まぁ、その位なら良かろう。では明日だな。しかし、あの浅い川で運べるものか?」
「それを確認するのよ。あ、雨だったら中止で頼む。」
雨だと炭は濡れて駄目になるし、水嵩が増してしまうからな。そう頼むと急ぎ帰路に就いた。
翌朝、河原に集合した我等は、炭俵を船に積む。まずは、三俵積んで喫水の深さを確認する。続いて、六俵積んでまた深さを確認だ。
「良し、大叔父上助かった。炭は片付けてくれて構わない。」
「何?船で運べるか確かめるのではないのか?」
大叔父が驚いた様に聞く。
「うん、炭を積んだらどの位船が沈むかは確認した。だから代わりに石を積む。その為に
叺とは莚を二つ折りにして作る袋だ。
「成程、色々考えておるの。」
大叔父も叔父二人も感心したように頷く。
「因みに、今の川の水嵩は冬場と比べて大差無いと思うが、二人はどう見る?」
「うむ、そう変わらぬと思う。冬に較べれば、ちと少ないやもしれんな。」
「左様ですな。某もそう思います。」
上之郷の二人から見てもそうなら問題無いだろう。芳中国は、夏の降雨量がかなり少ない地域だ。山之井は山から湧き出す水が直接流れ込む場所に位置する為に、水に困るという事はまず無いが、平野部では水不足になることもしばしば有るらしい。
皆でせっせと叺に石を詰めたら船に積んで出発だ。
「若鷹丸、手伝いはいらんのか?」
忠泰叔父が聞いて来る。
「良いのか?そうしてくれると助かるが。」
「うむ、俺もどうなるのか気になる。」
「そうか、ではお願いする。叔父上二人で両岸から綱で船が速く走り過ぎぬ様、抑えて欲しい。霧丸と松吉は舳先に乗れ。竿でなるべく川の真ん中を通る様に操るのだ。」
「若はどうするんだ?」
「俺は岸から様子を確認する。」
「綱は持っていれば良いのか?」
「いや、腰に巻いてしまった方が楽だろう。但し足場が不安定だから、石の上で滑って転ぶとそのまま川に引き摺り込まれるかもしれんから気を付けて欲しい。」
「案外、おっかないな。では、俺は向こうへ渡ろう。」
そう言って、忠泰叔父は水をザブザブと掻き分け対岸へ渡って行った。
実際に運用する際は、流れに任せた速度で下りたいがまずは最初だ。全速力で浅瀬に引っ掛かって、船上から放り出されたくないからな。
「お〜い!!」
城の下の橋の上に、ちょこんと腰掛けた紅葉丸が手を振っている。
ここまでに、船は二度底がつかえた。どちらも川底の小石の高まりが原因だった為、そこを竿で突き崩してしまえば進むことが出来た。つかえた場所には、目印を置いてから進んだ。喫水を深くした時に、また底がつかえるかもしれないからだ。
「のせて〜♪」
松吉が、橋の上から紅葉丸を抱き上げて船に乗せる。このままプールまで乗せていけば良いだろうと思って、ここで待たせていたのだ。
「三人とも頭を下げろ。」
紅葉丸達が船の上でしゃがみ込む。
「橋は考えないといかんな。」
「左様ですな、荷物を積んでは通れませんぞ。」
叔父二人が言う。
「そうだな。ここは源爺に相談だな。霧丸、松吉、綱を持ち変える故、竿で船を止めてくれ。」
二人が竿で船を押し留めている間に、叔父が橋を越えて綱を持ち直す。城から下流でも一度底がつかえたが合流点まで無事に到達できた。
「三人共、泳ぎに行って良い「は~い♪」ぞ。霧丸、松吉、紅葉丸を頼むぞ!!」
「わかりましたー!!」「わかったー!!」
走り出した紅葉丸を慌てて追い掛けながら返事をする。
「案外なんとかなるやもしれんな。」
俺がそう言うと、
「そうですな、橋以外は問題なさそうです。」
「これから狭邑の方に上ってみようと思うが、二人共大丈夫か?」
「まぁ、大丈夫だろうが、石は降ろしたい所だな。」
「そうするか。」
石を河原に捨て、船を担いで橋を越える。今度は俺が船に乗り竿を突く。
「こうして、竿を突くと良くわかるな。狭邑川は大分浅いぞ。」
「流れも速いな。力も大分要るぞ。」
空荷でも途中一度底がつかえたが、何とか狭邑まで到着した。
「これは…馬で曳いた方が良いかもしれんな。」
「せめて、曳き手は四人はいないと。」
三人で河原に座り込みながらそんな話をする。通り掛かった領民に行賢、行昌の親子に、河原まで来て欲しいと言付けを頼む。
「若様、突然どうされました。忠泰殿に永由殿もそんなところで座り込んで。」
二人は暫くしてやって来た。
「二人共、呼び出してすまん。実は、民に冬の仕事として炭を焼いて、焼いた炭を三田寺に運べないか試していてな。上之郷の方は試したので、今度は狭邑で試してみようと思って船を曳いて来たんだが、些か疲れてな。」
「成程、それは上手く行けば民は助かりますな。」
「うん、それには実際に見て貰うのが一番だと思って呼んだのだ。行昌の叔父上も付き合わぬか?」
「では、ご一緒しましょうか。」
「よし、では石を積もう。」
「石ですか?」
二人は不思議そうに聞き返す。
「うん、実際に炭を積む代わりに、同じ位の重さの石を積むのよ。」
「成程、それは理に適っておりますな。」
理解が早くて助かるな。
「若様、今回は大分水深が浅そうです故、三袋で如何です?」
「俺もそう思う。三俵分で行こう。」
永由叔父の提案に俺はそう返す。
三俵分の石を積んで船を出す。
「その先は先程つかえた所だ、気を付けてくれ。」
速度を落としながら川の川俣まで下る。
「狭邑川は一度底を浚った方がいいかもしれんな。」
「どう言う事です?」
行昌叔父が尋ねる。
「鍬のような道具で、底の砂や小石を岸に掻き寄せて川を深くするのよ。多少だが洪水対策にもなるはずだぞ。」
「ちと手間ですな。狭邑では手に余るやもしれませぬぞ。」
叔父は不安そうだ。
「やるとしたら領内総出で、山之井川と両方やる事になろう。問題無いはずだ。」
それを聞いてほっとした様子を見せた。
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