24・猟師飯と鶏出汁

「早速だが、狩りについて教えてくれないか。」

「へぇ、狩りは基本、二つの手段に分かれます。一つは罠を仕掛け獲物が掛かるのを待つ。もう一つは山を歩き獲物を見つけたら弓や石で仕留める。この二つです。」

「石?石というのはあの石か?投げるのか??」

気になった点を質問する。

「そうです、そこいらで手頃な石を拾っておいて、これで投げます。」

そう言って両端に紐の繋がった小さな布を見せてくれた。紐の片方は輪になっている。

これは、あれだ、スリング?だ。くるくる回して石を飛ばすやつだ。

「ここに石を包んで紐で回して勢いを付けるのか?」

「良くわかりますな。その通りです。」

驚いた様に答える。

「これで何が獲れるのだ?弓矢を使う時との違いを教えてくれ。」

「獲れるのは鳥の類までです。大きくても山鳥や雉です。矢は消耗しますし、風が強い時は重さのある石の方が真っ直ぐ飛びますので状況によって使い分けます。」

確かに矢は矢じりは鉄だし矢羽根も必要だ。節約したい気持ちはわかる。

「兎や狸も獲れないことはないと思うぞ。」

勝吉が補足する。

「まぁ、逃げられる方が多かろうが、確かに獲れないことはないかもしれませんな。」

 罠も見せて貰った。脚に紐を括り付けるタイプの罠や箱の入口が落ちる罠等、現代と基本的な考え方は変わらないようだ。ただ、大物を獲るのは落し穴が中心だそうだ。その後様々な話を聞いている内に昼前になった。


「そろそろ昼ですな。昨日山鳥を獲って参りましたので是非召し上がって行って下され。」

そんな事を言ってくれた。

「饗しは要らぬと言ったではないか。」

「まぁ、そう仰るな若様。兄者は若様が来るのを殊の外楽しみにしていたのだ。」

勝吉が助けか茶々かわからない言葉を挟む。

「では、頂くか。奥方、米を持って来た故、急ぎ炊いて下さらぬか。」

俺は腰籠から隠し持っていた米を出す。

「若、まだ米を持ってたのか!?」

松吉が驚いた様に言う。

「なに、ちと多めに貰ってきただけだ。」

「奥方、お願いする。」

「は、はい!!」

米を奥方に渡した。


 囲炉裏では山鳥が香ばしい匂いを立てて焼けている。

「これは、堪らん。食う前から旨いな。」

「若、すげぇ良い匂いだな。」

こちらに来てから初めて嗅ぐ肉の焼ける匂いだ。霧丸も松吉も目を輝かせて見ている。

「奥方、飯は半分握り飯にして下され。」

おにぎりと鳥肉の組合せなんて最高に決まってる。

「さぁさぁ、焼けましたぞ。脚の付け根が一番美味ですからどうぞ。」

さっと塩を振ったモモ肉を渡してくれる。そのまま手掴みで齧り付く。

「「旨い!!」」

「こんな旨い物は初めて食った。」

霧丸ですらこのはしゃぎ様だ。

「お気に召した様で何よりですな。」

定吉達が嬉しそうにこちらを見ている。

「そなた達も食おう。母御も奥方もだ。」

「しかし、これは若様達にと思って獲って来ましたので。」

「何を言う、皆で食ったほうが旨いに決まっているではないか。さ、さ。」

遠慮する四人に多少強引に勧める。


「米と一緒だと更に旨いですな。」

そう言って定吉が鳥を食べている。そして、骨をポイっと皿に投げる。

「骨はどうしているのだ?」

気になって聞いてみた。

「骨ですか?このまま捨てちまいますけど?」

何を当たり前の事をと言った感じで答える。

「なんと、勿体ない事を。」

「しかし、骨なんてどうしろってんです?」

知らぬなら教えてやるか。

「奥方、鍋に水を入れてここに吊るしてくれぬか。」

そう頼んで囲炉裏に鍋を吊るして貰う。

「ここに骨を全部入れるんだ。」

鶏出汁にしてやる、鶏じゃないけど。不審げな様子だが皆骨を入れる。暫くすると煮立って来たので灰汁を掬う。

「塩を下され。」

塩で味を整えたら骨を取り出して残りの飯を投入。

「何か青物はないか、三つ葉等あれば最高なのだが。」

「三つ葉でしたら畑に。」

奥方がそう言うので。

「少量でいいので急ぎ採って来て下され。」

「わかりました。」


 飯をかき混ぜながら奥方を待つ。

「これは良い匂いですな。骨を茹でるとこんな良い匂いになるとは。」

「三つ葉持って参りました。」

「水で洗ったら適当に切って下され。」

最後に刻んだ三つ葉を入れてさっとかき混ぜたら完成だ。椀によそって皆に配る。

「母ちゃん、なぜ今まで骨を捨てていたのだ!?」

「お前だって捨てていたではないか…」

「旨い!」

「冬だと、ネギを入れると抜群に旨くなると思うぞ。」

山鳥雑炊は大好評だ。


「昼から豪勢な饗しをしてもらって忝ない。」

居住まいを正し礼を言う。

「何を仰います。半分以上は若様に饗されたようなものではないですか。」

「いやいや、二人の山鳥があってこそよ。ところで、いくつか頼みがある。」

恐縮する定吉にそう言う。

「何でございましょう。」

「明日は猟に出るか?可能なら同行させて欲しい。邪魔にはなると思うがどうかお願いしたい。」

定吉と勝吉が顔を見合わせている。

「朝早いですぞ?夜明けには出掛けますが宜しいですか?」

「…普段からそれ位には起きているが。松吉が不安だ。」

おい、目を逸らすな!!

「よし、朝一番にここへ来れば良いか?」

「そうですな、獲物次第ですが昼前後には戻りますのでそれで宜しいですか?」

「うん、それならそのまま城に帰れる。問題無い。」


「もう一つは、冬毛の鹿の毛皮が欲しいのだ。銭は与平と同じだけ払うので譲って貰えないだろうか?」

本命の依頼だ。

「毛皮ですか、この間も毛皮を気にしていらっしゃいましたな。」

「うん、防寒用に欲しいのだ。何枚か欲しい。銭は知っての通り持っている。」

「わかりました、そちらは秋以降に確保しておきます。」

「お願いする。」

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