18・落ち着いてきた日々
三人で河原で木刀を振る。丸太を運んで以来、大掛かりな作業は無く木刀を振る余裕も出て来た。
朝集まるとまず筌を仕掛ける。今までは膝の深さの所に仕掛けていたのだが、
「なぁ、なんでもっと深い所に仕掛けないんだ?」
と、松吉が言うので、
「足を取られると危ないからな。これ以上は入らないことにしている。」
と、説明したのだが…
「…投げればいいじゃないか。」
と、革命的な提案をされてしまった。いや、確かにその通りだった。何せ自分達で作った仕掛けだ。愛着もあるので投げると言う発想に至らなかったのだろう。これにより、魚が獲れる確率が大分上がった。筌七つで毎日三、四匹の鮎が獲れるようになった。タンパク質摂取が大分改善されたのではなかろうか。
続いては稽古を行う。木刀を振った後、槍も振る事になった。松吉は剣に拘りがあるらしく家でも朝晩木刀を振っているらしい。後は弓と馬を扱えるようになれば立派な武士なんだが弓は力が弱く、馬は背丈が足りずにまだ手が出せない。
その後は山に入る。ここのところ城の南に向かって探索をしていたのだが、南に進むほど篠山城、つまり落合の集落に近づくことになり人の手が入っていた。まぁ、予想していたことではあるが南に目ぼしいものは無かった。今日からは北へ進む予定だ。霧丸と見つけた椎茸も全て城より北で見つけた物だ。
川沿いを例の苺の群落のある微高地まで進み、そこから山に入った。
「若はなんで山にやたらと入るんだ?」
松吉がそう聞いて来る。確かに子供としては不思議かもしれない。もっと遊びやすい場所があるからな。
「まぁ、理由はいくつかあるが。一番は椎茸を探している。あれは高く売れるらしいから今度行商人が来たらコッソリ買い取って貰うつもりだ。他にも山菜とか美味いものが採れるだろ。それに夏になると下草が伸びて山は歩き難くなるから今のうちにと思ってな。」
「確かに夏は山に入りたくないな。蚊も多いし。」
「だろ?夏は暑いし川を中心に遊ぼう。」
「やったぜ、それがいいよ。」
霧丸も笑顔で頷く。言葉には出さなくても山歩きは辛いのだろう。
「と言う事だから、すまんがもう暫く山に付き合ってくれ。」
「仕様がない、俺達は近習だからな。」
「…別にお前でなくてもいいんだぞ?」
「あぁ、うそうそ!喜んでお供するぜ!!」
等と馬鹿を言っていると、
「秋にはまた椎茸を探しに山に入るんですか?」
霧丸が鋭い疑問も投げかけて来た。
「そのつもりだ。」
「えぇ、秋も山かよ。」
お前、そんなに山が嫌いなのか?そう言えば松吉は年齢の割に体が大きい。一つ年上の俺と背丈が変わらないからな。ひょっとしたらその分体が重いから霧丸よりも堪えるのかもしれないな。
「秋は椎茸だけじゃないだろ?栗、柿、
「確かにそうだ…それなら頑張れるな!!」
扱いやすくて助かるな。
「そう言えば、稲刈りの前に村総出で猪や鹿を狩ると聞いたんだが、本当か?」
この間猟師の話を聞いたときには出なかった話題をぶつけてみる。
「あぁ、そんなの毎年じゃないか。何言ってんだ?下之郷は落合と狭邑と一緒に南と東の山をやるんだ。猪旨いんだよなぁ。」
「中之郷も上之郷と一緒に北の山をやりますね。」
二人共何を当たり前の事を、と言った様子だ。
「知らなかったんですか?村では子供も皆連れて行かれますよ?」
これって…俺が知ったら行きたがるから内緒にされてた?
「俺が行きたがるだろうから教えてくれなかったのかもしれん…」
「「あぁ…」」
初めて二人の心が一つになった瞬間だった。
「そう言えば、母ちゃんがそろそろ行商人が来る頃だって。今年は戦もないからもう来るだろうって言ってたぜ。」
松吉が重要な情報をもたらす。
「なに、そうか。春は行商人はどこまで来るんだ?秋は米を買いに城まで来るんだが。」
もっとも、俺は行商人が来る時は部屋から出して貰えなかったから良く知らないのだが。あれ?これって俺があれこれ欲しがると思われてるからか?
「春も秋も中之郷までは来ます。上之郷の人達は中之郷まで来ていますね。」
「狭邑にも行かないみたいだぜ。下之郷まで来てるからな。」
成程、合理的だな。
「来たら絶対に教えてくれよ!!」
二人が苦笑しながら頷く。この日は山菜がいくつか採れた所で終了となった。時期を外してしまったのかここの所椎茸には巡り会えていない。
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