17・問題である
問題である…何がって一日置きに筋肉痛でダウンしていることについてだ。一昨々日、椎の木を切り倒す。一昨日、筋肉痛でダウン。昨日丸太を作って運ぶ。今日、筋肉痛でダウン。つまり、二日に一日は何も出来ていないのだ…今日は二人は来られるだろうか。
流石に今日も朝の稽古を休むと怒られそうな予感がしたので無理矢理参加したが。木刀の重いことと言ったら無かった。
今日も二人を迎えに行くか。と思ったが今日は城に来て貰わねばならないんだった。仕方が無い櫓で待つか。今日の見張りは行連であった。
「若様、少しお久しぶりですかな。」
「そうだな、田植えの期間は会えなかったからな。」
暫く振りの挨拶を交わす。最近は櫓に登る回数も減って来たのでこうして話をする回数も少し減った気がする。
「田植えは如何であった?」
「まぁ、例年通りと申しますか、大過なくと申しますか。悪くは無いのでは御座いませんか。」
「後はお天道様次第か。」
「左様ですな。」
芽が出て少し青くなって来た田んぼを眺めながらそう話す。
「そうだ、落合の御婆様に会ってきたぞ。行連の事も心配していた。偶には顔を見せに行け。」
「姉上ですか。お元気でしたか?否、聞くまでもありませんな。」
祖母の話が出ると行連の表情が少し歪んだ。
「アハハハハ、行連も御婆様には頭が上がらんのか!」
その顔を見て思わず笑ってしまう。
「まぁ、その…なんといいますか…まぁ…」
「アハハハハ、気にするな爺も頭が上がらん様子だったぞ。笑顔で詰められておった。」
またもや笑いが漏れるが、一応励ましておいた。これはきっと自発的には会いに行かんな。あれ?御婆様と行連が兄弟という事は。
「今更気が付いたが、行連は俺の大叔父になるのか。」
「まぁ、そういう事になりますかな。」
「なんだ、上之郷は分家で大叔父、落合は祖父母、狭邑は大叔父。山之井の者は皆親族ではないか。」
「狭い所ですからな、助け合わなければやって行けませぬ故。自然とそうなりましょう。」
「そうだな、せめて親族は仲良くやって行きたいものだ。頼むぞ大叔父上。」
最後は冗談めかして言うと、
「左様左様、仰る通りですな。」
と、笑ってくれた。
「そうだ。ちと、聞きたいんだが。狭邑郷には正助と言う猟師が居ると聞いたんだが。」
話を変えてそう聞く。
「正助ですか。確かに猟師をやっていますな。それが何か?」
唐突な話題に訝しげな行連。
「うん、何人か弟子が居るとは聞いた。上之郷にも一人猟師が居るそうだ。だが、狭いとは言え山之井の領内に猟師が二人と言うのはちと少ないのではないかと思ってな。」
「どうですかな、普段はそれで事足りているように思いますが。」
疑問をぶつけると思わぬ答えが返って来たのだが。
「普段というのはどういうことだ?」
「あぁ、それは彼らは普段は山に入って獣を狩っておりますな。」
「それはそうだろう、猟師だものな。」
「ですが、特別な場合と言って良いかわかりませんがもう一つ大事な役目がありましてな。」
「ほう、狩りをするだけではないのか?」
話がイマイチ理解出来ない。
「いえ、どちらも狩りです。稲や野菜が実って来ると、これを狙って山から猪や鹿が下りてくることが多いのです。これを追い払いながら獲物を獲るのです。この時は村の者が総出で手伝いをしましてな。山裾から獣共を山奥に追い立てます。その為、猟師自体は少なくても問題ないのでしょう。」
山狩り?巻狩り?のような物だろうか?また知らない事が出て来た。
「つまり、人数が必要な時は村の者が手伝うから問題ないということか?」
「まぁ、そういうことですな。」
ん〜…もうちょっと革や肉が気軽に手に入ると嬉しいんだけどなぁ。
「因みにその者はどんな人柄だ?」
「悪い御仁ではありませんが愛想が悪く偏屈ですな。」
ワハハと笑いながらそう言われた。
そんな事を考えていると足取り重く、二人がこちらに歩いて来るのが見えた。
「あれはまだ大分掛かりそうですな。」
行連が呆れた様子でそう言う。
「昨日ちと無理をさせ過ぎたのだ…気を付けないと誰も俺に付き合ってくれなくなるぞ。」
「ワハハ、若様、ご自分で仰られていては世話無いですな。」
いやまじで…
なんとか辿り着いた二人を門で迎える。
「今日はのんびりしよう。」
機先を制して伝える。明ら様にホッとする二人。いかん、気を付けないと本当に愛想を尽かされてしまうぞ。
「あ、若、母ちゃんから預かって来たぞ。」
そう言って松吉が担いで来た物を降ろした。
「おぉ、魚籠じゃないか!もう出来たのか!?母御は夜なべ等しておらんだろうな。」
余りに早いので心配になる。
「…俺が迷惑掛けてるだろうからって、豪く張り切って作ってたよ…」
うん…そうか、
「母御に俺が大変感謝していたと伝えてくれ。それと松吉は良くやっているから心配せんで良いとな。」
「そうだろう?そう言ったんだけど、母ちゃんちっとも信じてくれないんだよ。」
気を良くしたのか勢い良く松吉が喰い付いて来る。
「それはまぁ、仕方無いな。」
チラっと霧丸を見る。
「仕様がないですね。」
霧丸もしっかり追従してくれた。
「なんでさ!?」
「ほら、源爺の所に行くぞ。」
うんうん、持ち上げたらしっかり落とさないとな。叫んだ松吉を置いて屋敷の中に入る。
「源爺、いいかい?」
源爺の部屋の前でいつもの様に声を掛けた。
「どうぞ、お入り下さい。」
部屋に入ると、
「すまぬ、昨日は二人をこき使い過ぎて荷物を持たせる余裕が無かったのだ。」
昨日、槍と木刀を取りに来られなかった事を詫びた。
「構いませぬよ。そこにできておりますのでお持ち下さい。」
そう指し示す通り、入口の脇に稽古槍二本と木刀が一本立掛けてあった。
「いつも、助かる。二人共大切に使…」
「すげぇ、俺の剣だ!!俺だけのだ!!」
俺の言葉の途中で松吉が木刀に飛び付いて叫んだ。
「爺さんありがとう、俺自分だけの物なんて始めてだよ。」
満面の笑みで源爺に礼を言う松吉。
「ふん…そうか。精々若様のお役に立つのだな。」
すごい、あの源爺が照れているではないか。松吉すごい才能だ。槍を手にした霧丸も、
「いつも、ありがとうございます。」
そう言ってしっかりと礼を言った。
「そうだ、松吉。母御の作ってくれた籠を貰うぞ。」
そう言うと、松吉も現実に戻って来た。
「あぁ、いいぜ。でも若、四角い方はどうするんだ?」
松吉がそう聞いて来る。源爺も珍しく興味を示している。
「うん、これか。これはな、こうするのだ。源爺縄を少し貰うぞ。」
そう言って葛籠の背に付けて貰った紐通しに縄を通して腰の前で縛る。
「こうするのだ。」
戦国風ウエストポーチというかヒップバッグというかそんな感じだ。
「「お〜…」」
二人の目が輝いている。ついでに水筒と魚籠を右側に、鉈を左側に括り付ける。
「これでちょっとした物はこれに入れて行けば良いし、山で採れた物も仕舞っておけるだろう。」
「これは、柴刈等で山に入る時に良さそうですな。」
源爺もそう言ってくれる。
「ただ、壊れやすいかもしれんと言われてな。暫く使ってみようと思っているのだ。」
ふふふ、秘密道具とお宝を仕舞うバッグは必要不可欠ですよね。
「良し、今日やる事は終わった。二人共釣りに行こう。」
そう二人を誘った。
「え?筌じゃないんですか?」
「え?折角俺の木刀が出来たのに稽古しないのか?」
気を使ってのんびり出来る事を提案したんだけどな…
「筌も仕掛けるが疲れているからのんびり釣りでもしようと思ってな。松吉は手の皮剥けているんだろう?今日はやめておけ。新品の木刀に血がつくぞ。」
結局、その日は三人見事なボウズであった。
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有難い事に昨日は200件を越えるPVがありました。週間ランキングも徐々にではありますが上昇して参りました。これもお読み頂いている皆様のお陰です。ありがとうございます。
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