8・秘密の場所
「さて、今日は最初に仕掛けた場所に仕掛けよう。」
「別の場所でなくていいんですか?」
「紅葉丸がいるからな。出来れば最初は魚が獲れた方が嬉しいだろう。」
「わかりました。」
三人で川に入る。
「紅葉丸は危ない故ここで待っていろ。深くなるぞ。」
「え〜…」
可愛く不満を表す。
「川に流れてどこかへ行ってしまうぞ。」
ハッとした様子で足を止めた。流れて行ってしまうのは嫌らしい。
「よし、これで良いぞ。また後で見に来よう。」
「稽古をしますか?」
霧丸が聞く。
「いや、今日は紅葉丸がいるから後にしよう。川上の方はまだ行ったことがないから少し川沿いを上ってみよう。」
「あ、とり♪」
紅葉丸は両手を俺と霧丸に引かれてご機嫌に歩いている。ここいらは城の北にある田んぼの先。上之郷に近く、少し川岸が高くなっている場所だ。耕地に適さなかったからか原っぱになっている。その一角に黄色い花が固まって咲いていた。
「あ、苺だ!!」
霧丸が嬉しそうに走って行く。
「苺って、あの赤くて甘い実の成る苺か?」
「そうです、こんなに沢山生えてる。」
確かにギザギザで艶の無い葉は記憶にある苺っぽくは見える。花は黄色ではなく白だった気がするが。野イチゴとかそういう奴だろう。
「あにうえ、いちごってなに?」
紅葉丸が聞いてくる。
「小さな甘い実が出来るのだ。美味しいぞ。」
「きりまる、いつできる!?」
慌てて霧丸に聞く紅葉丸。
「夏です。多分もう二月位。」
「は〜♪」
「良いか紅葉丸。この場所のことは内緒だぞ。母上にもだ。」
「わ、わかった…ないしょ」
女性は甘い物が好きだからな。俺たちの分が無くなってしまう。母上には悪いが秘匿させて貰うぞ。
「よし、紅葉丸、引っ張れ!!」
原っぱで少し休んだ後、俺たちは橋の所に戻って来た。太陽の向きから昼を少し過ぎた位だろう。
仕掛けの紐を引いて紅葉丸が引き上げる。
「からっぽ…」
覗き込んだ紅葉丸がションボリと言う。
「まだ三つある。」
「いる〜!!」
結局最後の一つに小振りの鮎が一匹だけ入っていた。それでも紅葉丸は大喜びだ。
「紅葉丸様、やりましたね。」
「紅葉丸、それはお主の鮎だ。屋敷に戻って夕餉に出して貰うように頼もう。」
「やった〜♪」
太陽のような笑顔で紅葉丸が喜ぶ。
城に戻った紅葉丸は門番達に鮎を自慢し、母の部屋に向う廊下ですれ違う者にも見せびらかし、そして母にも大喜びで鮎が獲れたことを報告した。
「紅葉丸、もう眠いのであろう。寝てしまう前に厨に鮎を頼みに行こう。」
「ゔ〜…はぁい…」
気が抜けたのか母の部屋ですっかり眠くなった紅葉丸を連れて厨へ。そして、母の部屋に戻るときには既に紅葉丸は俺の背中にいた。
「母上、紅葉丸の寝床を。」
母の部屋に戻りそう言うと、
「こちらですよ。」
既に用意されていた。まぁ、あれだけ眠そうだったからな。
「迷惑を掛けましたね若鷹丸殿。」
母がそう言う。紅葉丸は天使の寝顔だ。
「いえいえ、紅葉丸は弟ですから当然です。それに霧丸ともすぐに仲良くなって、楽しく遊んで参りました。」
「そうですか、紅葉丸にも歳の近い遊び相手がいるといいかもしれませんねぇ。」
「やはりそうですね。若鷹丸殿も霧丸と遊ぶようになって毎日楽しそうですものね。」
そう、一人でも新しい世界でそれなりに楽しくやって来たがやはり友達がいると楽しさが違うのだ。
「では、母上。俺は霧丸を待たせているのでもう一度出掛けて来ます。」
「はい、行ってらっしゃい。」
母に見送られて部屋を出た。
河原で待っていた霧丸と再合流する。
「すまん、待たせたな。」
「いえ、今日はどうしますか?」
「もう一度筌を仕掛けよう。これからは朝仕掛けたら昼に一度上げて二回仕掛けよう。それから稽古をやろう。」
昨日よりも更に上流に仕掛けをした後、二人で木刀を振った。
「さっきの苺のあった辺りは余り人が入っていなそうだ。もう少し見て回らないか?」
「そうですね、山菜なんかも採れるかもしれない。」
そう話し合うと再びさっきの原っぱへ向かう。
「それと、裏山は今は城と集落が見える範囲だけしか行ってないだろ?」
「そうですね。」
それが何か?という顔をする霧丸。
「見ての通り裏山はずっと川沿いだ。つまり城や集落が見えなくても斜面を下れば川沿いに出られるから尾根さえ越えなければ問題無いと思うんだけど。どう思う?」
「…確かにそうかもしれない。」
霧丸はまだ少し釈然としない表情ながらそう頷いた。
「だろ?明日からは少し範囲を広げてみよう。」
「でも明日はお寺で和尚と手習いがあります。」
くそ、そうだった。
「じゃあ、明後日だ。明日は寺の裏山にしよう。あっちは霧丸は詳しいんだろう?」
今度は自信有り気に頷く霧丸だった。
結局、原っぱの周りでは
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