7・のんびりと待つ

 櫓の上から領内を紅葉丸と眺める。今日の見張りは行連ではないが、確か狭邑郷の出身だったはずだ。

「狭邑郷はどんな様子だった。何か面白い話はあったか?」

見張りの若者に聞くと、

「そう言われても、田植え中は忙しいですからねぇ…」

「まぁ、そうだろうな。暇にしていたら俺が見張りに立った意味がないものな。」

そりゃそうだった。


「それじゃ、狭邑郷には何か面白い場所とか産物はないのか?」

「そう言われてもなぁ…」

「山之井に無いものとか珍しい物でも良い。」

「あ〜…滝が有りますね。」

「へぇ、滝があるのか。狭邑川か?高さはどの位だ?」

「狭邑川なのか支流なのかわかりませんが、集落より大分奥の北の山から落ちてますね。高さは十間(約18m)位かなぁ?」

「十間か、大分高いな!!」

夏になったら行ってみたいな。


「あにうえ、たきってなに?」

かわいいがあらわれた!!

「滝というのは川が段差になっていて水が落ちている場所の事だ。俺も見たことはないがな。」

「へ〜!!みずがおちるの??」

「そうらしいぞ。」

わかったようなわからんような顔で頷く紅葉丸。

「ハハハ、若様も良くそうやって行連殿にあれこれ聞いていましたな。」

若者が、そう言って笑う。

「今でもそう変わらんがな。現に今だってお主にあれこれ聞いておる。」

「確かに、若様は相変わらず若様でしたか。」

そう言ってまた笑う。


「で、他にはないのか?」

「狭邑と言っていいかはわかりませんが、海が見えるのはご存知で?」

「ご存知ない!海が見えるのか!?どこからだ!!」

これは予想外な情報だ。距離次第では可能性が広がるかもしれない。

「南の尾根です。ほら、あそこの下之郷との間くらいの所に一段高くなっている場所がありますでしょう。あそこから実野川を下った先に見えるんです。」

彼は下之郷のやや左奥にある尾根筋を指差しながら言う。

「それは、良いことを聞いた。また、何か思いついたら教えてくれ。」

「お役に立てたようでなによりですよ。」

そう言って彼は笑ってくれた。


「あにうえ、だれかきた!!」

その時紅葉丸が少し興奮した声を上げた。

「ふむ、何処だ?」

「あそこ!!」

指を指している方を見ると…確かにいる。まだ城への道に曲がったばかりだ。走っている。大きさ的に子供のようだから多分霧丸だろう。アイツ、手伝いがある時はユックリで良いと言ってあるのに…

「良く見つけられたな。凄いぞ。だが、まだ遠くて誰だかわからんな。」

褒められて得意気な様子の紅葉丸の頭を撫でていると、

「あにうえ、いこう!!」

居ても立っても居られないのか紅葉丸に急かされて櫓から下りる。

「邪魔したな。」

「いえいえ、いつでもどうぞ。」

見張りに声を掛けて梯子を下った。

「紅葉丸、取り敢えず台を置いて来い。外では邪魔になるぞ。」

「は〜い!」

屋敷に走って行った。と、思ったらすぐに飛び出して来た。アイツめ、玄関に放り出して来たな…

「いこう!!」

紅葉丸に手を引かれた俺は筌を手にその後に続く。


「行ってらっしゃいませ。」

微苦笑と共に門番からそう言われる。

「いってきま〜す!!」

「走ると後で疲れてしまうぞ。」

「へいき〜」

二人で川へ向かって坂を駆け下りる。


「「ぜいっ…ぜいっ…」」

「だから言ったではないか…霧丸、お前もだ。手伝いがある時はユックリ来いと言っただろうに。」

「でも…ぜいっ…遅くなっちゃったから…ぜいっ…」

「次からはユックリだ。いいな。」

「はい…」

「あにうえ…おみず」

…二人を残して城への坂を登る。なぜ、俺がこんな事で坂を登り降りせねばならんのか…でも、紅葉丸に川の水を飲ませるわけにもいかんしな。ただ、探検隊の装備に水筒が無かったことは確かだ。今後の為に調達しよう。


「若様、忘れ物ですか?」

早速門で聞かれる。

「下で二人が息切れしているので水を取りに来た…水筒って誰が管理しているんだ?」

ついでに聞いてみる。

「水筒ですか、我ら守兵は皆自分の分を持っておりますな。村の連中も同じでしょう。後は厨かな?お米さんに聞いてみたら如何です?」

「そうか、わかった。ありがとう。」

水筒なんて戦に行くときには必ず必要だから城に備蓄されているかと思ったら個人所有だった。でもまぁ、この時代武器防具も基本個人所有だから水筒だってそうか。材料も竹だし、普段使いもするしな。


 俺は屋敷の外を裏に回ると勝手口から厨に入る。

「誰か居るかい!?」

朝の仕事が一段落したせいか厨には誰もいなかった。

「はいはい、どなたで?おや、若様。」

奥から初老の女性が出て来る。よねだ、父が子供の頃から屋敷で働いていて今では厨を取り仕切っている。俺の獲ってくる魚も米に頼んで夕餉に出して貰っているのだ。

「水筒あるかい?」

「水筒ですか。勿論ございますよ。ただ、若様には少し大きいやもしれませんが。」

そう言って奥の物置から水筒を出してくれる。竹の一節に穴を開けただけの時代劇でお馴染みのあれだ。

「まぁ、これ位なら大丈夫だ。二つ借りて行く。」

「そうですか、戻さなくて構いませんからお使い下さい。」

「ありがとう。じゃあ貰って行く。」

「はいはい、どうぞ。」


 井戸で汲んだ水を水筒に詰めて川に戻る。

「あにうえ、はやく〜」

誰のせいだよ…可愛いからいいけど。

「きりまるがかわのみずはのんじゃだめって」

「そうだぞ、腹を壊すかもしれんからな。」

「きりまるもそういってた」

いつの間にやら二人が仲良くなっている。まぁ、紹介する手間が省けたからいいか。


==========

 初めてギフトを頂戴しましたので限定近況ノートなるものを書いてみました。ただ、限定ノートをご覧頂かなくても作品に対しては全く影響はございません。読まない事で作品内容について何か不利益が生じるような事は今後書く分含めてございませんので、それでも読んでやるかと言う奇特な方は是非どうぞ。

 また、本作の余りの不人気ぶりから、更新の継続にご不安のある方がいらっしゃるかもしれませんので、現時点で未公開のストックが残り80話分程度あることをお伝えいたしますw

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