6・小科学実験

 爺が賛成してくれたこともあって、父は俺が爺の城に通う事を許した。ただし、一人では駄目と言う事で霧丸を正式に近習に付けて貰うことにした。近習なんていうと偉そうだが要はお供だ。善は急げだ。領地に戻る爺と父と一緒に中之郷の誠右衛門の家を訪ねる。


「き、霧丸を若様のお側仕えにですか!?」

「うむ、頼めるか。」

父と誠右衛門が話している。

「この子に務まりますかどうか。それに親元を離れてお城で暮らすのはこの子にはまだ無理ではないかと…」

後ろで様子を伺っていた母親が怖ず怖ずとそう言った。母親は初めて見たな。

「夜は家に帰れば良いではないか。」

俺が横から答えた。

「お、お城勤めになるのではないので?」

「そうだ、近習なら城に暮らすものだぞ。」

霧丸の母親と俺の父が驚いた様子で言う。

「何れはそうなるでしょうが、今は別に朝来て夜帰るで良いのではありませんか?霧丸は五歳。俺も六歳です。そう堅苦しく考えずとも。」

父に問う。

「まあ、そう言われるとそうなのだが。」

父も言われてみればといった様子、

「そもそも、爺の所に行くときにお供がいるというだけの話なのだから。和尚と爺の所に行くときには朝餉を食べたら分かれ道で落ち合おう。それ以外の時は城に来てくれれば良い。手伝いがある時はその後で良いし、田植えや稲刈りの時期は手伝いで良い。どうせ爺も和尚も総出で講義どころではないからな。」

そう。まとめて言うと。

「全く以て正論ですな。殿、それでよろしいのでは?」

爺も賛成してくれた。

「それもそうだ、誠右衛門。それでどうだ?」

「異論ございません。若様、霧丸を宜しくお願い致します。」

そう言って、誠右衛門と妻は頭を下げた。

「どう考えても、若が引っ張り回して迷惑を掛けそうですがな。」

笑いながら爺が言う。

「全くだ。」

俺がそう返すと、皆で笑った。


 話が纏ったところで爺は領地に帰り、父は城に戻った。俺と家の中に木刀を取りに行った霧丸は河原で筌を仕掛ける。今日は昨日より少し上流に仕掛けた。データの蓄積こそが大事なのだ…多分。

その後、二人で木刀を振る。休憩の後、源爺の所で小さめののみと木槌を借りて昨日残しておいた椎茸を根本の朽木ごと取りに行く。朽木のところで早速鑿で椎茸の根本を木ごとくり抜く。

 なんでこんな事をするかと言えば。椎茸を栽培するにはまず胞子を採取し、菌を培養した後に朽木に菌を植える。のではないかと思う…多分。

 そして木から採ってしまった椎茸では胞子を出さないのではと考えたのだ。その為に木に生えたままの椎茸が欲しかったのだ(後日、木から採った椎茸からも胞子が普通に落ちることを発見した…トライ&エラーとはこういうことだ!!)。その後、裏山を巡って追加で一本の椎茸をゲットした。因みに、魚捕りについては今日は収獲無し…まぁ、そんな日もあります。


 夕餉を済ませて部屋で椎茸栽培について考える。収獲無しだった鮎については紅葉丸に大層ガッカリされてしまった…取り敢えず見つけた椎茸は胞子が落ちてもいいように小箱に入れて保管している。そもそも、茸というものは秋に採れる物だと思い込んでいたんだが今は田植え直後である。つまり、椎茸は春にも採れるのだ(秋にも採れるらしい。)。よって胞子は年二回飛散すると考えられる。だが、原木栽培の菌をいつ植え付けるかについては全く手探りだし、原木も朽木ということは分かるが切った木を乾かすのか、それとも湿らせるのかその辺りも全く分からない。あれ…胞子はどうやって育てるんだ?なんか寒天培養みたいにするんだろうか??疑問は尽きないし答えは出ない中、悩みに悩んだお陰で朝までぐっすりである。


 翌朝、朝餉を済まし霧丸を待ちながら昨晩の続きを考える。まず、菌の培養は難しいことが分からないし、寒天培養なんて名前しか知らない。しかも近くに海がない。ということで二種類手立てを考えた。一つは米のデンプン。飯を少しちょろまかして糊を造り、そこで増やしてみようと思う。もう一つは大鋸屑。そもそも朽木に育つのだから木の成分で育つのではないか。こちらは水分量の多少で二つ試そうと思う。まぁ、まずは胞子が落ちなければ仕様がないのだが。

 続いて原木だがこれは三種類考えた。椎茸を採取出来た木に直接菌を植える方法が一つ。次にその朽木の、側に丸太を暫く放置する方法が一つ。最後は一度丸太を乾燥させる方法にしようと思う。乾燥は源爺の工房の隅にでも放り込んでおけば良かろう。


「あにうえ〜?」

考え込んでいたら紅葉丸が部屋を覗き込んでいる。

「どうした?」

「さいきんあそんでくれない…」

ションボリさんである。何この可愛い生き物!!しかし、確かにここ数日霧丸と飛び回っていたせいで紅葉丸にちっとも構ってあげていなかった。これは大変宜しくない、由々しき問題だ!!

「そうか、それは悪かった。よし、霧丸が来たら魚捕りの筌を仕掛けに行こう。」

「うん!!」

紅葉丸の顔がパッと明るくなる。

「では、櫓から外を見ながら待つとしようか。」

「だいもってくる!!」

紅葉丸が部屋から駆け出して行く。俺も母に紅葉丸を連れ出す許しを貰いに行くとするか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る