第8話 言っていいの?

 香織視点 恋人になってから


 萌と恋人になった。自分の想いもまだふわふわとしたものだったけれど、萌の想いもはっきりと示されるものではなかったけれど。


 それでも私たちは、自分が自覚しているよりは、もうお互いを好きだったと思う。


 肌を重ねたことで、萌は遠慮がなくなった。妙さんにいつもしていただろうくらいに、私に甘えてくれるようになったんだ。


 今だって、こっち向きで私の上に抱っこされて、心地よさそうに目を細めている。


(かわいい。)


「甘えん坊だね~?」


 こうやって揶揄うと、少し顔を赤くして萌が怒るから、やめればいいのについ言ってしまう。この空気が好きなんだ。


 ある日、私が萌の家にお邪魔したときのこと。妙さんが一人でリビングにいた。


「あ、妙さん。こんにちはー♪」


 ペコッと頭を下げて、私はちょっと妙さんと雑談してみようと、萌がトイレに行っている間そこに突っ立ってみた。


「香織ちゃん、いつも萌のことありがとね!」


 いえいえ。て言うか、この人私が萌の彼女になったの知ってるのかな?


「大事なんで。萌のこと。私が一緒に居たいから居るんで。」


 含みを持たせてみた。そして妙さんはなにかを察したような顔をした。


「・・・そっか。香織ちゃんならまかせられる。」


 ニコッとあの美人が笑った。けれど私はほんの一瞬、その笑顔が歪んだのを見た。


(ねぇ、、もしかして・・・妙さんって萌のことまんざらじゃなかったんじゃないの?)


 そんな憶測が生まれたのはその時だ。


「そういえば、元カノさんがここに来ていたって萌に聞いたんですけど、また付き合ってるんですか?」


 もう、聞きたいこと全部聞いちゃえって思って。萌のためでもあるし。


「あ、いや、そう言うんじゃないんだよねまだ。でも、そうね。付き合うかも知れないな。」


 それからすぐ、妙さんは元カノとよりを戻したんだ。もしかして、私が萌と付き合い始めたのが何か・・・。いや、もういいか。


 そんな疑念が起きたけれど、私はその後一切そのことについて誰にも話すことはなかった。今でも。だって、もしそれが憶測じゃなくて本当なら・・・。


 そんなこともあって、私は萌にべったりになった。不安というわけじゃない。少しはそういうのもあったのかも知れないけれど。ただ、愛しさが増していった。


「萌・・・。こっちきて♪」

「萌。しよ♡」


 萌、萌、萌、って。


 そう、私。「好き」って言えなくなってしまった。なぜなら、私はまだ萌にちゃんと好きだと言われていないし、萌の本当に付き合いたい女性は妙さんであることも知っていた。だけど、萌が持つどのくらいかわからない私への好意だけで繋がったから。


 好きって言いたいときに言いたい。そして何より、私が萌に、好きと言われたかった。


 ねぇ、私言っていいの?

 恋人に好きって言いたいときに言っていいの?


 やばいなこれは。らしくないシリアスモードだ。


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