第3話 どうしたらいいの

「ねー、あんた。そんな顔して良く撮影きてんね?」


 ファッション系の雑誌の撮影現場に来ていたモデルの萌にそんな声をかけたのは、何度か撮影で一緒になって話すこともあった香織という女の子だ。友人と言うよりは顔見知りといったところだ。  


 香織は金髪に薄くピンクを混ぜた、まるでシャンパンゴールドのような髪をした、それでいて小動物っぽい可愛らしさを持つ女の子。自分を魅せるのが得意で、自分が可愛いことを自覚しているであろう妖艶な笑顔をする。


 顔のことにイチャモンをつける不躾な質問をしているときも、首をかしげる仕草や髪をかき上げる姿は一般人とは違う小悪魔さも持っていた。


 だからって、こんなときに冗談交じりでそんな失礼な質問に答える気にはなれない。


萌「そんな顔とは何よ?失礼ね・・・。」


香織「ブスだって言ってんじゃないのぉ。明らかに絶望感が漂ってるってば。そんなんで撮影来てたら次から仕事来なくなるよ?」


萌「うるさいな。。今日は放っておいて。おねがい。」


 座っている椅子の上で片足を体育館座りのように曲げて、顔を俯かせる萌。


香織「はぁ、、なんかあったんだね?こりゃ失恋かな?」


萌「・・・泣くわけにいかないんだからそういうこと、今言わないで。。」


 撮影中なのに泣くわけにはいかない。私は必死に涙をこらえて香織にしっしっ!と片手であしらう真似をした。



 あのね? 失恋じゃないの。でも失恋に近いよ。

 私は姉に対してするようなことではないレベルのスキンシップをしてしまった。そのせいで、姉から明らかに距離を置かれてしまったんだ。直に胸を触り、唇にキスをした。甘やかされてなんでも許されると思って調子に乗ってしまったんだ。


 絶望的な反面、私の脳にはあのときの感触がしっかりとこびりついていて、したくなくても何度も反芻される。胸のさわり心地・・・、唇の触れあう感触・・・。その多幸感と絶望を交互に思い出してぐるぐると目が回る。マジで、今日の撮影は断るべきだった・・・と自分でも思う。


香織「はーぁ。しょうがないなぁ。付き合ってあげるよ。」


萌「は?何意味がわからない、本当にちょっと放っておいてってば。」


香織「だからさ。聞いてあげるって言ってんの。撮影終わったらご飯行こ?」


 って、人に話せるようなことじゃないんだってば。姉にガチ恋して勝手に盛り上がって自滅したって言えばいいの?


香織「とりあえず、撮影中はもうちょっと頑張って。ほらっ、笑って笑って~?」


 すんげえ可愛い子がほっぺびろんびろんに両手で伸ばして変顔してくる・・・。わかったよ、、そりゃ今はこれじゃダメなのわかってんだし。てか、


萌「ありがと。。」


香織「あ。きゅん。」


萌「は?」


香織「なんでもない~♪ごはんごはん~!楽しみだーぁ!」




 撮影終了後。

 私たちは比較的安価なイタリアンレストランへ来ていた。


香織「パスタ~!ピッツァ~!シェアオッケー?カルボマストオッケー?」


萌「呪文みたいなのやめて。日本語で話して。」


香織「ちょー冷たいじゃん。そんなんで私は萌のハートをこじ開けることを諦めないよ~?」


萌「・・・・・・。ボロボロなのよ。今こじ開けられたら砂になる。。。」


香織「歌詞みたい。すなーになるー♪」


 なんかこいつ軽めにウザいな。。なに言っても大丈夫そうだな。。


萌「あのさ。私、女の子が好きなのね。」


香織「え、そうなの?私?」


萌「ちがう。で、引く?引かない?」


香織「あはは。引かないよ?だって私も女の子大好きだもの♡」


萌「え!?そ、そうなの?まじで?つ、付き合ったこととかは?」


香織「うーん。まぁあるような?ないような?」


萌「なにそれ。はっきりしないなぁ。」


香織「で?女の子に告白してフラれた?それとも言い出せなくて凹んでる感じ?」


萌「うんと、、言ってない。言えない。言わせてもらえなくなりそう。」


香織「おお、なんちゃら活用!」


萌「古文のこと?」


香織「知らんけど。笑」


萌「なんなのよあんた。」


香織「なんで好きって言えないの?」


萌「そういうこと言える関係じゃないから、かな。」


香織「学校の先生とか?それとも家族とか?」


萌「!!!あんた・・・怖いんだけど。」


香織「え、当たったの?どっち?」


萌「やだ。言いたくない。」


香織「まぁ、いいけど。言いたくないなら言わんでよろしいよ?で、付き合える可能性が低いってことね?」


 そのまんまを言われて悲しくなってきた。


萌「勝手にキスしておっぱいさわった。それで近づくと警戒されてる。もう・・・どうしたらいいかわかんない。」


香織「え、すごい。見た目と違ってそういう感じなんだね。それってセクハラとか痴漢の・・・」


萌「ちがうっ!」


 私は食い気味に否定した。そういうんじゃないよ。私は、、ただ、いや。お姉ちゃんが嫌がるならそうなのかもな・・・。


香織「うん、まー、しばらく冷却期間っていうか、相手の様子を見るのも良いんじゃない?」


萌「そうしているけど、、、近くにいるのに寂しい。。」


香織「きゅん。」


萌「それなんなの?」


香織「キュンときたときの音」


萌「そのまんまじゃん。」


香織「今日、うち泊まる?朝まで話して泣くのもありだと思うよ?」


萌「ううん、、いい。会えないのはイヤ。帰る。」


香織(一緒の家に住んでるってことか。。それはまた、、)


「おっけおっけ。まぁ、私も考えてあげるからさ。うまくやってこ?」


萌「ぐすっ、、あ、りがと。。」


香織(こんなに女々しいって言うか、女っぽいとこあるんだね、ふぅん?)



 

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