そこに(条文が)なければ全部合法ですね。


「まず解決すべきは宿泊施設ですね、ここから始めましょう」


「宿泊施設はダンジョンの経営に必要不可欠ですが、建物を作って宿泊施設としてお金を取ると、これは旅館業法の適用を受ける営業施設となります」

「ですが、旅館業というものは審査の為にも非常に手間とお金がかかりますし、今すぐ始めるというのは現実的ではありません」


「うむ、当然だな。しかし、冒険者たちをそこらで野営させれば、それで済むことではないのか? サモ領は土地が有り余ってるぞ」


「そうなるとですね……壁もない状態で金品をもって野営するわけですから、強盗や刃傷沙汰の発生は必須です。起こしてほしいならそれでもかまいませんが」

「むむむ……」


「ですので、一つ目のズルをしましょう。サモ領に川があってよかったです。でなければこの手段は使えなかったので。」


「――まず、桟橋に古い船を持ってきて、適当に誰が使うかもわからない古い家具とか寝具を入れておきます」


「次に舵とかマストを取っ払ってしまいます。これで沖修理の状態にしてしまえば資産価値は0。破損したものとして取り扱われます。法律上、運航できない壊れた船を、所有している桟橋に繋ぎ続けることは、違法でも何でもありません。」


「ここからがポイントですが、閣下は冒険者にサモ領での『野営』を認めます」

「ほう?」

「これにより冒険者は河川法の保護のもと、自由に野営が可能です」

「もし河川に放置されている廃船に入り込んだとしても、これはあくまで廃船ですから、河川法上、何の問題もありません」


「えぇ……しかしそれは侵入罪とかに問われるのでは?」


「所有者を示していない、鍵も無く開け放たれているような場合は、不起訴となった事例があります。第一、所有者不明の廃墟なんて山ほどありますし」

「それはそうだが……」

「たまたま廃船があって、そこに冒険者が入り込む。法律上何も問題ありません。もっとも、これのせいで部屋にちゃんとした鍵を用意できないのですが……極論、扉が動かなければ良いんです。つっぱり棒を用意しておけば良いでしょう」


「なぜか冒険者さんがお金を忘れて行くかもしれませんが、その場合は拾得物になり、一時所得の税金がかかるので……そうですね、適当に川の神の祭壇でも作りますか。お賽銭は非課税ですので。」

「ひっでぇ。」


「二つ目のズルは、交通の便の問題です。今のところ、冒険者がサモ領に来る方法は、陸路で時間をかけて行き来するしかないですよね?」


「かといって、川を使うとどうなるか? 冒険者を送り届ける定期航路がサモ領に就役してしまうと、ダンジョンの評価額が跳ね上がります」


「それに小規模のコボルド銀製品の輸送と冒険者の運賃だけでは、赤字路線間違いなしですね。まともにやったら非常に苦しめられる部分だと思います。」


「うむ、今のサモ領に大した店はない。冒険者を連れてくる以外にとくに運ぶ荷物がないから……赤字間違いなしだろう」


「なので、ここでは船舶法を使いましょう」

「ほう、嫌な予感しかないが聞こうではないか」


「船舶法の規定では、は半月以内であれば、上陸地で自由に行動できます。これは休養のための規定なのですが……」


「さて、定期的に開催される市に来る船は2でしたよね?」


「あっ」


「サモ領に船が停泊している間、乗組員がこっそりダンジョンに潜り、コボルト銀製品を荷物の底に入れて街に持ち帰ってしまうなんて事が起きるかも?」


「それで、うっかり出発に乗り遅れた乗組員は、次の船に乗って帰る。そんなことが起きてしまうかもしれません」

「なるほど、確かにそれは仕方がないな?」


「そして、船を用いることでのメリットがもう一つあります。ポーション等の販売とそれを用いた治療。これは本来、薬事法の規定では、帝国の認定を受けた薬剤師、医師でないとそのぎょうとして行う事が出来ません」


「サモ領においてポーションの販売や、治療を提供するには、認可を受けた医師と薬剤師が必要です。しかし、船の場合は、船主の責任によって船医と衛生用品の提供ができます」


「怪我をした乗組員が、船から持ち出した備品のポーションで自身を治療するのは何ら問題ありませんし、それらの備品の売り買いが発生しても、それは船主の問題ですから、サモ領にはまったく関係がありませんね。」


「そうだね、乗組員の問題だから、一切ウチが関知しない問題だね。」


「また、冒険者を現地で船員として採用したところ、健康に問題があるため、その場で治療。そんな事が起きても、サモ領に法律的な問題は一切ありませんね」


「わぁ、悪魔の発想」


「そういうごたごたの結果、船に積み損ねた荷物や金銭が桟橋に残される。そんなことが起きるかもしれません」

「そうなってしまっては遺失物を預かるしかないな?」

「はい、金銭はともかく、コボルド銀製品を川の神の奉納品としても、売却してしまうと、業者との間で収受の対価が発生するので、税金が発生します」


「なので川の神の宗教法人を新しく起こして、寄付として扱いましょう」

「この人、なんかすごいこと言い出したよ?」


「これだけでもダンジョンの固定資産税を払えるとおもいますが、ダメ押しで合法なことをしようと思います。」

「まだあるの!?」


鹿金貨200枚の固定資産税になるわけです。」


「嫌な予感がする。ほんとに合法だよね?」


「はい、合法です。まず桟橋のクレーン、あれ、とり壊しちゃいましょう。あのクレーンのおかげで評価が馬鹿上がりしちゃってるんですよね。今回のプランでも活用しないので、もう解体するなりしてスペースを空けて廃船を係留する場所を少しでも増やした方が良いかと」

「あぁ……、ナズー殿から見ても邪魔物だったのね、あのクレーン」


「次に『歩きシーテケ』ですが、弱点なんかありません。以上。」


「わぉ、ドン引きする位ひっでぇ。」


「なので、冒険者さんのあいだでこっそりノウハウを共有していただいて、討伐数を抑制していただければと。歩きシーテケは実際強いですし…」


「古代杉の棍棒を十数発耐えてるからなぁ……人間だったら甲冑を着ていても原型残ってないぞ」

「え、あの棍棒そんなに強いんですか?」

「まあ……ワールイ帝国の親衛隊が使ってる獣骨剣でも砕くぞ」

「歩きシーテケ、打撃面での防御は、ゴールド級くらいありそうですね……もっと盛っておきたいんですが、そうなるとガチ勢きちゃうかなぁ?」

「そんなのが来たら奥のコボルド達がどうなるか。奥に引き籠ってもらうか?」


「そこに関してはもう手を打ってあります。コボルドさんたちは今、コボルド銀製の3重の防爆壁の奥に避難してもらっています」


「彼らには、歩きシーテケのテリトリーの先に倒したご褒美として、コボルド銀のツルハシやトンカチなんかをそれとなく置いてもらう手筈を伝えてます」


「すべてやらせじゃないか……いや、実際ありがたいんだが」


「それらの対応で資産価値は100ワールイ金貨以内に収められると思います。

 いやー、ほんとにあのクレーン邪魔だったんですよね。この規模ですと固定資産税は1%前後ですので、年間の支払いは1ワールイ金貨に収まるかと。」

 

「それで、コボルド銀製品は今年の相場だと15ジャーク銀貨ですので、あれとこれとそれとを計算して…これが損益分岐点かと。」


 カバンから算盤を出したナズーは、パチパチと軽快に珠をはじくと、導き出された数値をサモ13世の前に示した。


「……これは、驚いたな」

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