第2話 消えないんだなぁ

「ああ。びっくりした。」



 夕飯を作っていて時計を見ると結構な時間だった。私は鍋の火を止めて手を軽く洗うと、家の目の前にある公園に走る。まだ小さな娘が生まれて間もない子犬を連れて遊びに行ってしまった。お友達のお母さんが見ていてくれるからと思ったけど、この時間だ。帰りなさいと言われても一人で居るのかも知れない。


 案の定、もうお友達もその親であろう影もなく、ベンチに座る知らない女性に話しかけている。ほんっと、人見知りがないのも困ったものよ。


 話しかけてみれば、私にとってこれほど良く知る顔はなかった。仲の良かった親友でも何でもない。中学の時に1度だけ同じクラスになったその子は、、


「同じクラスだったよね」


 覚えていてくれた。私のずっと好きだった人。嬉しくて、だけどさっきまでキッチンに居た、なんのおしゃれもしていない自分に気づいて恥ずかしくなる。


 すごい引力。。一気に昔の自分のフィルターで見た彼女を思い出した。それはスーツケースいっぱいの写真を一度にぶちまけたようだった。


 物思いにふけっていると、わんこをママに返して一人で手を洗って戻ってきた娘に話しかけられて現実へと還る。


「まーま。さっきの人、おともだちだった?」


「うん。ママの学校のお友達だったんだよ。」


「泣き虫さんだったねぇ。あはは。」


 そう。やっぱりそうなんだ。目が真っ赤だった。それすらかわいく思ってしまったから考えていなかったけれど、何かあったからあそこに居たのかも。


 娘があそこに居なかったら、、私が話を聞いてあげたかったな・・・。


 別に、なにか変えたいわけではない。彼女のことを思い出したことも最近はなかったし、私は今なにも不満はない。普通に優しい夫と、小さな私の愛する娘。そして犬、一軒家。なにも変えたいと思わないし、変えて欲しくない。


 ただ、驚いたのは、それとこれとは別って感じで、、


「全然、消えないんだなぁ。。」


 あの顔とか、話す雰囲気、声、そういうのを見ると、一気に引き戻されるくらい、私はあの人みたいな人、、あの人がか。あの人が好きだったんだなと気づいた。


 まぁ、気づいたところでって話だけど。また会えて嬉しかったな。


 思い出したのは、初めて話をしたときのことだった。


 私が休み時間に職員室から教室に戻ると、移動教室で誰も居なくなっていた。

 たった一人今移動しようとしていたあの人が、「一緒に行く?」と言ってくれた。


 話したことがなかったけれど、独特の雰囲気に惹かれ始めていたばかりだった。女っぽくはない。だけど男っぽいわけでもない。明るくも暗くもない。元気じゃない。静かな人。殺風景なのにずっと見ていたい絵のような人だった。


 移動教室までの数分を、横に並んで歩いた。本当に私たちはそれだけだった。


 あ、まずいな。考えるときゅってするね。


 はい。ご飯用意して娘をお風呂に入れて、パパの帰りを待ちますよ~!


(あとで、卒アルはちょっと見てみようかな。)


  

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