第5夢 化け物

瞑った目を開くと片目に傷を負った魔族は、私の横に倒れてきた。

ーーガシャン


「…………え?」


倒れていた自分の体を起こす。

何、何、なに、なに、なに、なにが……。

自分の真横には私に剣を向けてきた魔族が倒れている。


「な、……なんで……?」


隣に倒れている魔族は体の至るところから血が吹き出している。

血が回りに吹き散って、私にも血が掛かる。


「……っこの化け物!!」

「この魔族殺しが!!」

「化け物!!」

「今すぐ消えろ、化け物め!!」


そう言ってきたのは魔族だけではなく、魔族に殺されかけていた人間さえも私を"化け物"だと罵った。

私が……殺し、た……?

心拍数と呼吸が乱れる。

頭が割れるように痛い。

頭の中を今までの記憶が駆け巡る。

……そうか。

そっか、そうなんだ……。

私は……


「柳 奏……なんだ」


記憶を取り戻したものの隣で倒れている魔族を見て混乱する。


「ーーあ」


自分で死んだっちゃ死んだ、けど。

他人を殺すことなんて、平和な国で暮らしている私には無い経験だ。

周りからの罵詈雑言に前世を思い出す。

部活での陰口、毎日夢で見る悪夢……。

そっかぁ、私はここでも……


「……悪役かぁ」


ここは私が作った小説の中だ、だから私がこと後にどんな結末を辿るか知っている。

でも今の場面は主人公にとっても、私にとってもトラウマなのだ。

嫌だ……。

泣きたい、逃げたい、消えたい、死にたい、ここになんて来なければ良かった。

誰か助けて、助けて、助けて、たすけて、たすけて、たすけて、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ……。


『だったら全部、壊しちゃえばいいじゃん』


……そうだね……全部。


『「壊しちゃおう」』


よろよろとしながら体を立たせる。


「神代魔法、番号2、起動」

「か……奏?」

「発動まで、10、9、8」


目の前が真紅の景色に包まれる。

自分の自我なんてとっくに●に受け渡した。

だけど体の感覚は私にも繋がっていて、共有されていた視界に驚きの人物が映る。


「……っそ、う華…………」


なんで目の前にいるの。

家でまだ寝ていると思ったのに。

湊華が目の前にいたら、魔法なんて使えないじゃないですか……。

それに湊華の後ろには冬宵もいる。

これじゃあ……


「魔法を使うなんて……無理じゃん」


魔法の発動を中止する。

すると魔術回路に回していた魔力が、逆流してくる。

人間が神代魔法を使うのを中止すると、大抵は血を吹き出して死に至る。

でも、また私は死ぬなんて嫌だ。

魔術回路にギリギリ魔力を流し続ける。

こうすれば魔法を使用するまでの魔力には至らないはず……。

目に自分の血が滲む。

聴覚、嗅覚、触覚、いずれも感じなくなってくる。


『なんで?なんで壊さないの?』


又●が私に問い掛けてくる。

そんなの……決まってるじゃん。


「湊華や、冬宵のことが好きだから。それだけだよ」

『…………はぁ、今回は出血大サービス』


そういわれた瞬間、眠気が私を襲う。

目の前がくらくらして目の前が徐々に暗くなってくる。

え、何。

なにが、おこってるの。

体が怠くて、制御が効かない。

湊華と冬宵が何かを叫んで私の方に走っているけど何も聞こえない。


『大丈夫、死にはしない。ただ長い眠りにつくだけ』


ねむ、る……?

それなら、いっか……。

そこで私は意識を手放した。



***



暗い暗い水の中。

水の中なのに呼吸ができる。

ここは何処だろう。

でも、何故だか……心地いい。

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