第2夢 転生して記憶喪失

「さっさと出てきな!この出来損ないが!」


そう言われて雨の中、泥水の中に投げつけられる。


「この穀潰しが!さっさとどっか行け!」


え?生きてるの、私?

でも確かに私はビルから落ちて死んだはず。

まさか、転生した?

ん?!

なんだ、この……小さな体はぁぁ!

手の感覚が上手く掴めない。

そうしていると頭に知らない人の記憶が入ってきた。

頭が割れるように痛い。

あ、私……


「奏だ……」


いや奏っちゃ、奏なんだけども!

ここは……私が作った小説の中?


「くしゅん!」


寒い……ってこんな薄着じゃ、そりゃそうだよな。

とにかく雨宿り出来るところに行こう。

走る、とにかく走る。

この小さな体だと、低体温症で死んでしまう可能性がある。


「また後悔が残るのは、嫌だ!」


そう言って私は森に入っていく。

魔女が住んでいるという不気味な森に。


「でもお話通りなら、魔女は私の血に興味……を……」


あれ?体が言うことを聞かない。


「なん……で?」


だんだんと意識が薄れていく。

やだ、やだよ。

2度も死ぬなんて、せっかく自分の小説の中に転生したのに……。

それでも意識は薄れていく。


「誰、か……」


そこで私の意識は途切れた。



***



「?……あらあら?珍しいわねぇ、人間がここに入ってくるなんて。もしもーし」


小さな人間は屍のようだ。


「あら?大丈夫?」


小さな人間は屍のようだ。


「生きては……いるのかしら?」


小さな人間は屍のようだ、が生きてはいる。


「じゃあ家に連れて帰ろうかしら。ふふ、面白いことになりそうだわ~」


そう言って美しい孤独な魔女は、小さな人間を家に連れて帰ったのでした。



***



「……」


ここは、何処だろう。

ほんのり薄暗い、けど暖かい。


「あら?気が付いた?貴方、森で倒れていたのよ」

「……」

「名前は分かるかしら?」


名前……


「……奏(かなで)」

「そう!奏ちゃんね!何処から来たの?」

「……」


何処から……


「……分から、ない」

「そっかぁ。じゃあ私と暮らす?」

「……貴方と?」

「ええ、そうよ。私と。私は魔王の四大幹部の1人、魔女の湊華(そうか)よ」


……魔女?

魔女ってなんだろう。

それより、私は……なんなんだろう。

名前は……分かる。

だけど記憶が思い出せない。

空っぽなんだ、今回も……。

……今回も?


「湊華さん……ここに住んで邪魔になりませんか?」

「いや全然。むしろ大歓迎よ!私、家族が欲しかったの!」


そう言われぎゅーっと強く抱き締められる。

苦しい……けど。


「あったかい……」


その日から魔女の湊華の家には1人、小さな人間が住み着いた。



***



月日が経ち、7年後ー


「湊華、私もう17歳になった。約束通り神代魔法を教えて欲しい」

「もう奏が来てから7年経ったのねぇ。時の流れは速いわぁ」

「って言っても湊華は不老不死じゃん」

「まぁね~」


今日も2人の笑い声が、森の中に木霊する。

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