第43話 思い出と目の前の現実と


 タクミはしばらくの間、遠ざかるレイカの背中を見送っていた。


 その腕をつんつんと遠慮がちに引っ張ったのはビャクヤである。早く目的の村に進もうと促しているのだ。


「あ……そうですね。行きましょう」


 歩き出しながら、レイカと過ごした二日間のことが仕切りと思い出される。


 長槍の一撃で大蝦蟇から救ってくれたこと。


 自分の生まれた村を誇らしげに案内してくれたこと。


 この世界の案内人をかって出てくれたこと。


 タクミの御力おちからは何かと覗き込んできた瞳の色。


 風になびく煌めく銀髪。


「後悔しているのですか?」


 突然、回想を断ち切られてタクミはハッとした。ビャクヤが心配そうに彼の顔を見つめている。黒曜石の瞳に微かにオレンジ色の光が差し込んでいて、彼女もまた御力おちからを解放された者だというのを改めて思い起こさせる。


 艶やかな黒髪に縁取られた白い顔はついうっとりと見惚れてしまうほど整っていて、タクミは慌てて目を逸らした。


「いえ、悔やんでいるわけじゃないです」


「タクミさんは悪くないです。悪いのは私でしょう。あの人はそう言っていました」


「それは……彼女の勘違いだと思います。レイカはほんとは強くて優しい人です」


 レイカを庇いつつ、タクミは前を見る。もう、誰かを頼っている場合ではない。自分の目的のためにも、か弱いビャクヤをヨバラズまで連れていくためにも、自分がしっかりしなければと腰のホルスターに差した鉱石銃に手をやる。


 ——大丈夫、いつでも撃てる。


 そんな少し不安そうなタクミをビャクヤは黙ったままじっと意味ありげに見つめていた。





 つづく

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