第42話 仲違いした二人


 タクミも戸惑いながらレイカに向かって反論する。それはもっともで、レイカも自分がビャクヤに抱く感情の半分以上がやきもちである事を自覚しているから何も言い返せない。


「それは、その……」


「レイカ、せっかく同じ方向に旅するんだ。別にこの女性ひとと一緒に行ってもいいじゃないか」


 さらに正論で返される。


 レイカがビャクヤがよろけた事について怪しいと言おうとしたそれより先に、ビャクヤがいかにもしおらしく切り出した。


「私のせいですみません。お二人の邪魔をするつもりはありませんから、私はここから一人で参ります」


「一人でって、そんな布一枚の格好でこの先旅できるんですか? 無茶ですよ」


 タクミもこの世界に溢れる野生動物の恐ろしさを理解して来た所だったから、慌てて彼女を引き止めた。


「でもレイカさんは私を嫌っていますし……」


「そんな事ないですよ。ちょっと誤解しているだけで——」


「誤解じゃない! この女は怪しい!」


「レイカ!」


 ついにタクミは口調強くレイカをたしなめた。決して怒っていたわけではないが、レイカはそう取った。


 いや、レイカよりビャクヤを選んだのだと判断した。そう思い込むと、レイカの心の奥が急速に冷えていく。動悸は激しいのに、胃の中に氷を押し込められたみたいに冷たく感じられた。


「……もういい。二人で行け。私は村に帰る」


「レイカ、そんな子どもみたいな事言わないでよ。一人で帰るなんて……」


「子どもみたいで悪かったな。私はこの辺りには慣れている。一人の方が身軽ですぐ村に着く」


 不貞腐ふてくされたレイカは顔をそむけてタクミの目を見ようともしなかった。明らかに自分に非があるからまともに彼を見れなかったのであるが、タクミは自分の顔を見るのも嫌なほど二人の仲がこじれてしまったのだと思った。


「わかった。そこまで言うなら仕方がない。ここまで案内してくれてありがとう、レイカ」


 レイカは、本当ははタクミに引き止めて欲しかったのだが、いまだに彼がビャクヤを庇うように立っている事が彼女を苛立たせた。


 返事をしないレイカに、タクミは相変わらず優しく話しかけた。


「帰りにまた村に寄るよ。元の世界に戻る時に、必ず挨拶に行くから」


 レイカは泣きそうになったが、それを前髪で隠すようにして頷いた。そしてそのまま彼らに背を向けると元来た道を進み始めたのだった。






 つづく

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