第40話 旅の女・ビャクヤ
結局のところ、森も草原も安全ではないので、タクミとレイカは助けた女性を乾いた道に寝かせた。
そこまで運んで来てから、ようやくタクミはその女性がほぼ半裸に近い状態であることに気がつく。慌てて回れ右をしてレイカに介抱を任せる。
レイカが調べた所では、蛇の噛み跡などもなく、ただ喪神しているように見えた。
まとわりつくばかりの黒い布は元は服だったらしく、あちこちが破れ、白い肌が剥き出しになっている。レイカは怪我や傷がの有無を調べると、
「う、ううん……」
ようやく気がついたのか、女性はうっすらと目を開いた。
「大丈夫か?」
「……ここは? 私、なにを……?」
レイカに体調を気遣われて、女性は戸惑いながら起き上がる。どうやら自分が陥っていた状態に気がついていないようである。
レイカは手短に彼女が蛇の森で倒れていた事を説明する。悲鳴を聞いて、自分とタクミが助けに行ったと伝えると、彼女は驚いて自分の身体を改める。
「安心しろ、咬まれてはいないようだ」
「でも、こんな姿で……」
「しばらくその布を被っているといい。タクミ、もうこちらを向いてもいいぞ」
レイカに呼ばれてタクミが近づくと、女性は布を身体に巻き付けた姿で礼を述べた。肩を露わにしたその姿は女神の彫像のように美しく見えた。
名前を尋ねると、ここからもっと東のヒノツカ村に住む、ビャクヤだと名乗る。
「ヒノツカからヨバラズに向かう途中でした。近道をしようとしたばっかりに……」
そう言って恐ろしそうに涙を浮かべて今来た森へ目をやった。
可憐、という言葉がよく似合うビャクヤに少しぼうっとしながらタクミは同じ村に行くのだからと同行を申し出た。
タクミは親切心からそう言ったのだが、レイカはややジト目で彼を見た。残念ながらタクミはそれに気が付かず、ビャクヤを気遣って手を取ってやる。
するとますますレイカの視線が冷たくなる。
その視線に気づいたのはビャクヤの方だった。レイカがハッとして目を合わせると、彼女は口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべたのだ。
——な、なんだこの女は!
助けてやったのにあの高慢ちきな笑みはなんなのだ、とレイカは憤慨したが、それを口に出すのはグッと我慢した。
どうしたってタクミによく思われたいのがレイカである。
ぐぬぬ、とうめきを漏らしながらもタクミがビャクヤの手を取って立ち上がらせるのを見守るしかなかった。
つづく
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