第39話 ヘビの森



 薄暗い森の中はそれほど湿り気もなく、むしろ陽射しを遮り快適な涼しさを感じる。


 ただ——。


 先程まで尾を引いていた悲鳴が、全く聞こえなくなったのだ。もしかしたら声の主の命が危ういのかもしれない。


「レイカ、どっちへ進めばいい?」


「……向こう、あの背の低い灌木の奥だ」


 レイカの指差す方へタクミは進んだ。何かが息を潜めている気配がする。


 風に乗って青くさいような——生ぐさいような臭いが鼻腔に届く。それでも歩を進めると、不意に灌木の向こうに白いものが見えた。


 薄暗い森の中、濃い緑色の草の上、その白さが目に刺さる。


「——あ!」


 タクミは息を呑んだ。


 白いものは倒れた女性の剥き出しの太ももであった。それから同じ白い細い腕、のけぞる白い喉——。


 そしてそれらに絡みつく無数の緑色の小さな蛇——!


「なんだこの蛇は⁈」


 鮮やかな若草色の細く小さな蛇が、女性の上に振って湧いたごとくまとわりつき、頭と言わず足と言わず全身を這い回っていた。タクミはその異様さに背筋が寒くなる。


 横たわるその人はおそらく悲鳴の主だ。タクミはぞわぞわとする悪寒を振り払って近づき、血の気を失った肌にまとわりつく緑色の蛇を払おうとする。


 ——もしも毒があったら?


 その懸念が頭をよぎる。


 背後からレイカの叱咤する声が飛んできた。


「その蛇は毒が無い! 急げタクミ!」


 そう叫ぶと、レイカもその女性の傍に屈んで素手で蛇の塊を掴んで投げ捨てた。タクミもそれにならう。あらかた蛇を払い除けると、二人は協力して失神したままの女性を抱えて蛇の森から逃げ出した。






 つづく

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