第34話 彼等の祖先


「今更、なんだけどさ」


「なんだ?」


 二人はヨバラズ村を目指して森の中の小径こみちを歩いていたのだが、だんだんと風景が変わって来た。


 あれほど背の高かった針葉樹の樹々が減り、背の低いブナやナラに似た植生に変わりつつあった。


「今更なんだけど、白蛇はくじゃ殿って特別なのかな?」


「特別?」


「つまりさ、他の動物は会話できないから狩られるの?」


 レイカは「ああ」と納得顔で答えた。


「人と会話できる者は狩ってはならない。そういう決まりがある」


「なるほど、覚えておかなきゃね」


「……人と会話できる者はその昔、この地に降り立った人々の子孫だという。つまり我々と同じ血を引いているのだ」


「えっ? でもそれにしては見た目が——」


 タクミは白蛇の姿を思い浮かべて言葉を呑み込んだ。あの姿でも数百年前は先祖が人型だったというのか。


「そうだ。元はウロコを持った人だったと伝わっている。その身に宿る力が強く発現した者が白蛇殿のようなお姿になるという」


「……」


 タクミは黙り込んでしまった。


 ——白蛇殿が人なら……やはりここは異界なのだな。


 そう思ったが、この世界の住人であるレイカに説明するには話しづらさを感じて黙ったのだ。ただ、レイカの口ぶりから、この世界ではそれは尊敬に値する事象で、決していとわれてはいないようである。


 ——異形もまた異能ということか。




 つづく

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