第33話 恥ずかしがるレイカ

「さて、道を間違えた所まで戻ろうか」


 少し恥ずかしそうにレイカはそう言うと、元気よく歩き出した。タクミもその後を追う。


 残念な事に高値で取引されるサイのツノは沈みの沼で手放してしまったが、重い荷物が無いだけでかなり歩きやすい。


 やがて道の上に大量の足跡を見つけた。レイカが屈んで指で足跡をなぞる。


「ここで猪の群れにあったのだったな」


「多分間違えたならこの辺りだよ」


 あたりを見回せば、どこか見覚えのある森である。針葉樹に似た恐ろしく背の高い樹々が空に向かって伸びている。


「そう、ここを向こうへ進めばヨバラズに着くはずだった。一日遅れてしまったな。すまない、タクミ」


 謝るレイカに、タクミは首を振ってそんなことはないと示す。何よりもこの数日でレイカへの信頼は強くなっていたからだ。


 ——この世界に詳しくて、強い。あの巨大な白蛇との事も取り持ってくれる。


 少し道を間違えたくらい、なんてことはない。


 その気持ちを伝えると、レイカは少し頬を赤らめてそっぽを向いた。


「こここ、この世界に生きる者は皆知っていることだ。そそそ、そんなに褒められることではない」


 はたから見れば、どう見てもレイカは照れているのだが、そういう機微に疎いタクミは逆に怒らせたかと心配になる。


「さ、さっさと行くぞ」


 照れた顔を見られまいと、レイカは足早に歩き出した。






 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る