第32話 暖かな朝食



 脂ののったシギは美味うまかったな、とタクミは起き抜けから食事のことを考えていた。


 少しだけくすぶっている焚き火のそばで目を覚ました彼は、向かいにレイカの姿がないのを見つけて少しどきりとする。


 既に毛布は丸められていてきちんと縛ってある。そんなに寝過ごしたつもりはなかったが、タクミも毛布を片付けると、身なりを整える。幸い服もすっかり乾いていて、身に付けるのに不便はない。


 ——この世界に来てから、二回目の朝か。


 白い空を見上げながら、気持ちよく伸びをした時、木陰こかげからレイカが沢山の小枝を抱えて現れた。


「起きたか、顔を洗ってくるといい」


「おはよう、レイカ」


 レイカの言葉に甘えて、タクミは川に向かう。冷たい水で顔を洗うと、昨日の記憶が鮮明に蘇ってくる。


 ——白蛇はくじゃ殿、か。


 あれほど大きな蛇を見るのも初めてなら、底なし沼に落ちたのも初めてだ。今更ながらぶるりと身を震わすと、タクミは野営地に戻った。


 ——今更、恐れても仕方ないじゃないか。


 既にレイカが焚き火を大きくして、小鍋で湯を沸かしていた。昨日の焼いたシギ肉の残りを入れて塩で味を整えると、持ってきた固いパンを小刀で切って放り込む。


「ほら、朝飯だぞ」


「ありがとう」


 所々へこみのある、年季の入った金属製のカップにパン粥を分けて食べる。


「おいしい!」


 焼いたのも美味かったが、少し冷えた身体に染み渡る温かいスープも美味かった。


「私の分も食べるか?」


「えっ、いや、そんなに食いしん坊じゃないよ」


 ささやかな食卓に明るい笑い声が響いた。






 つづく

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