第30話 ささやかな晩餐


 レイカが戻ってきた時、彼女は様々な物を手に戻ってきた。


「うわ、すごい。何これ?」


「シギだ。ここらには沢山いる鳥だ。焼いて食べる」


 そう言って二羽の鳥をドサリと置いた。その他にも焚き火の為の乾いた木の枝と、山刀で切り出した長い棒を何本か携えていた。タクミは焚き火に枝をくべると、長い棒を近くの枝に渡して物干しにした。自分の濡れた服をそこに干す。


 その間にレイカはシギの羽をむしり、血抜きをする。大きな鳥ではないので、さほど時間はかからなかった。


 手早く腹を割くと内臓を取り出して適当な木の枝に刺す。火のそばに枝を立てて焼き始めると、やがて美味しそうな匂いが辺りに漂いはじめた。


「パンも少し炙ろう」


 レイカは食事の支度を済ませると、今度は拾ってきた太めの木切れを火のそばに置く。少し乾かしてからくべるつもりだ。


 タクミはレイカの手際の良さに感心する。レイカは少し頬を染めて照れたようにそっぽを向いた。


「こ、こんな事は日常的にしている」


「僕の世界ではなかなか体験できない事だよ。尊敬する」


「そっ、尊敬……?」


 レイカは真っ赤になって黙ってしまった。もっとも向かいにいるタクミは焚き火のせいでレイカの顔色には気が付かない。興味深くシギが焼けるのを見つめている。


 タクミの瞳に映る炎をチラチラと見ながら、レイカは彼が食い入る様に見ていた『本』が何であったのか気になった。


 レイカが近づく気配にも気付かず、熱心に見ていた姿は人が変わったように見えて、まるで別人だった。出会った時から礼儀正しいタクミにも、そんな近寄り難い雰囲気を出すこともあるのだと内心驚いたのだ。


「タクミ、さっき見ていた物はなんだ?」





つづく

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