第23話 欲張った二人


サイのツノはなんといっても薬にもなるし、これだけの大物だと高値で売れるぞ」


 売れたら何を買おうか。食べ物ももちろん、武器になる鉱石を買っても良いし、なんなら馬を購入して旅をしてもいい。


 レイカは楽しそうに並べ立てるが、そのツノを背負わされた方は大変である。なんなら背負っていた荷物よりもずっと重いし、舗装されていない道を歩くには邪魔である。


 それでもタクミもやっぱり欲があるから、この世界の食べ物も気になるし、余裕があるなら鉱石銃を造ったという『街』にも寄ってみたかった。


 予定のルートには無いが、くだんの『街』には酒場や宿もあるらしい。


 ——寄ってはみたいけど、今は急ぐからなぁ。


 父親を連れ帰る旅じゃなければな、とタクミが考えたその時——。


「何か来る!」


 レイカが耳をそば立てた。タクミには少し遅れてドドドと地響きが聞こえて来る。


イノシシの群れだ! 巻き込まれるな!」


「そ、そんなこと言ったって!」


 やがて音のする方から、樹々を揺らしながら黒い塊が大地を埋め尽くすかのように広がって来る。


「なんだって今日はこんなにツイてるんだ?」


 レイカは目を輝かせて喜び、遅れがちなタクミの腕を取って走り出した。


「あれは黒猪の群れだ。いつもなら村人総出で狩るんだけど」


「二人じゃ無理だろ? ツノを捨てて良いなら狩りを手伝うよ!」


 たくさん狩ったとして、今の二人では狩った猪を運ぶこともままならないだろう。


「わかってる! ——猪は諦める」


 レイカは心底残念そうに叫ぶと、小さくて価値の有る犀のツノの方を選んだ。群れに遭遇しないように彼らの向かう道行から外れてやり過ごす。


 すぐそばを猪の群れが大地を揺らして駆けていく。二人は息を潜めてその大群を見送った。タクミは食べたことはないが、猪の肉料理というのもあるからレイカが残念がるのも仕方がない。滅多にないご馳走なのだろう。そう思うと、タクミも少し食べてみたかったかな、などと考えるのであった。






つづく

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