第22話 鉱石銃は魔法の銃か

「レイカ!」


 ザザッと足を滑らせながら、タクミは立ち止まって反転する。同時にレイカが跳躍し、その下を通り抜けるサイの首元に長槍を放った。


 それは巨獣の首を貫き、喉の下から刃を覗かせた。しかし、レイカの妙技は犀をよろめかせたにとどまる。興奮した犀は痛みをも凌駕し、真っ直ぐにタクミめがけて突進して来た。


「しまった! タクミッ、逃げて!」


 華麗に着地しながらレイカは山刀やまがたなを抜いて犀を追いかける。


 タクミは——鉱石銃を構えた。


 ——大蝦蟇おおがまの時とは違う。あれより大きくて硬い皮膚だ。


 タクミは瞬時に判断し、続けざまに二発の光弾を放った。光は装填した蛍石と同じ緑色で、正面から犀をとらえた。


 光は犀の頭を切り裂き、そのまま巨軀をも貫いて行く。二発目もその軌道を追い、跳ねた犀の身体の中心を走り抜けた。


 さすがの犀もその勢いを殺してタクミの目の前でどうと倒れる。そこへレイカが走り込んできた。


「タクミ!」


「僕は大丈夫。レイカこそ、ケガはない?」


 タクミはホルスターに銃をしまいながら、勇敢な少女をいたわった。レイカもまた山刀を納めながら頷き返す。


「すまない。仕留めたと思ったのだが……」


「すごい技だったね」


「タクミもな。やはり魔法はすごい。あの巨体が真っ二つだ」


 タクミはエナ婆の言葉を思い出していた。


 ——石に宿った力を魔力として使える者は他にもおる。しかしながらそう多くはない。お前は稀有な武器を手にしているのじゃ。


 それから教えられたのは、石の色によって魔法が変わるということだった。


 緑色の石からは風の魔法。

 透明な石からは光の魔法。

 赤色の石からは炎の魔法。

 青色の石からは水の魔法。

 黄色の石からは雷の魔法。


 色の数だけ様々な魔法があるそうだ。


 タクミは持っている蛍石を確認する。緑色の蛍石が多い。その他にも様々な石や宝石を持って来たから、しばらくは困らないだろう。どんな魔法を放つのか、楽しみな面もある。


 そもそも鉱石を持って来たのは、父からの手紙に書いてあったからだ。


 その手紙には、旅に出た理由と『鉱石銃』の使い方が記されていた。結晶そのものを使うと効果的であるとあったので、八面体の蛍石を携えて来たのだ。


 ——もっとも、アイツは「探さないでくれ」と書き残していたけど……。


 探しに来たどころか、連れ戻しに来たことを知ったら、父は怒るだろうか。タクミは少しだけ心を曇らせると、倒した犀のそばにかがむレイカの方に目を向けた。


「何してるの?」


 レイカは渾身の力を込めて、犀のツノをもぎ取ろうとしていた。いくらなんでもレイカの細腕では無理だろう。


「ツノ、だっ。高く売れるぞ」


 なるほど、とタクミは頷き手伝うことにする。レイカに離れるように指示すると、『鉱石銃』に装填した石を小さな物に取り替えた。


「小さな石は強力すぎない魔法を出せるはずだ」


 そう言うとタクミはツノの根元に銃口を近づけて引き金を引いた。


 緑色の風魔法による斬撃は鋭くも細い光となって、巨体からツノを切り離した。


 一抱えもあるツノはズシン、と大地に落ちた。これはかなりの重さがありそうだ。


「これ、持って行けるかい?」


「む……無理だろうか……?」


 キラキラとした宝石のような瞳に懇願され、タクミは仕方なしにその重いツノを背負う事にした。





つづく

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