第20話 現れた巨獣は


「あれは——」


 タクミは絶句した。


 目の前に現れたのは、どう見てもタクミの知っているあの河馬かばサイである。小山のような巨体を揺らして、二頭はぶつかり合っている。


「河馬と犀だな」


 ——名前もそのままなのか!


 レイカは少し緊張しつつも、その二頭がお互いに争い合っているのを見て少し気を緩めた。二頭に襲い掛かられてはたまらないが、この獣達はどうやらタクミとレイカの事は気にも留めていないようである。


 ただひたすら目の前の相手を倒すべくぶつかり合っているのだ。


「この辺には多い動物なの?」


 小声でレイカに訊ねると、少し先に沼地があるのだという。


「河馬はそこに多く住んでいる。だが犀のほうはもう少し離れたところに群れていると思っていた。何か理由があってはぐれたのかもしれない」


 ——なるほど、はぐれた犀が河馬の縄張りに入ったということなのか。


 二頭は戦いながら移動して来たらしく、お互い血まみれである。河馬の牙が犀の皮膚を破り、犀の角が河馬の肉を貫いたと思われる。


 そこへ——!


 決してぼんやりしていたわけではないが、タクミとレイカが隠れている木に、二頭がぶつかって来た。


「!!」


 犀がその角をもって河馬を木に押し付けた形になる。その衝撃で、隠れていた木はメリッと音を立てて、倒れ始める。


「レイカ、そっちへ!」


 二人は声を押し殺しながら移動する。幸い、犀は河馬を倒すのに夢中で二人には気がついていないようだ。弱っていたのか、河馬はついに膝をついた。そうなってしまえば犀は勢いづく。その巨大な前脚で体重をかけて、弱った敵を踏み潰す。


 巨獣の断末魔が響いた。





つづく

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