第18話 レイカの出自

 この世界の気候は穏やかだった。


 ずっと薄曇りであるが、暑くもなく寒くもない。どうやら一定の気温が保たれているように感じられる。


「だから旅装も少なくて済むんだね」


「うむ、気をつけるべきは獣達だな。この辺は所々に湿地があるから、そこに住む大型の獣がうろついている」


 レイカの村の人々が少なかったのは、『街』まで行商に行く者たちと、その護衛に人手をいているからだった。


 そうなると村の守り手かつ狩りの名手たるレイカを連れて来たのはまずいような気もする。タクミが心配すると、


「気にするな。私達と入れ替わりに帰ってくる予定だ」


 と、意に解さない気楽な返事が返ってきた。


 レイカは村を出て旅をするのが楽しいらしく、さっきからずっと上機嫌だ。時折鼻歌を歌ったり、長槍で小動物を指し示してタクミに名前を教えてくれたりする。


 ——まるでピクニックみたいだな。


 次の目的地ヨバラズ村まではそう遠くない。途中で二泊するくらいで着くらしいから、食糧も硬めに焼いたパンをそれぞれ三つ持たされた。次の村で補給して進むのがこの世界の旅であるのだ。


「基本的に敵対してない村はお互い協力し合う。ヨバラズは親戚も多い」


「……というと、敵対してる村もあるってこと?」


 タクミがやや心配そうに訊ねると、レイカは少し真面目な顔をして話し出した。


「そうだな、なんといば良いか……土地や狩の獲物を巡って、争った相手はいる。それとは別に、種族間の争いもある」


「種族?」


「お前の父が言っていたな。お前の世界には『人間』しかいないとか?」


 ——いや、動物もいるけどね。それは違うんだろう。


 タクミは少し好奇心をのぞかせた顔でレイカに先を促した。


「この世界には大きく分けて『人間』、『器用な人』、『魔族』、『幻獣族』。このうち『魔族』系の奴らはその他の種族を嫌っている。注意するのはこいつらだ」


 ——僕は当然、『人間』に分類されるんだろう。


 レイカは自分の耳を指差して続けた。


「私の耳は少し尖っているだろう? これは私が精霊エルフの血を引くからだ」


「えっ、エルフ⁈」


「知っているのか?」


「いや……でも多分僕が知っている『エルフ』じゃないと思う」


「——本当にお前の父親と同じ事を言うのだな」


 同じすぎて不気味だとレイカは思った。それからこの世界のエルフについて説明する。普通の人よりも身体能力が高く、魔法も使える。見た目の特徴としては耳が尖っているのと銀髪か金髪であることが多い。


「私は父が普通の人だから、魔法は使えないが、時折何かの声が聞こえる。エナ婆は精霊の声だと言う」


 その声が何を言っているのかまでは聞き取れないのが惜しまれる、と彼女は嘆いた。


「知らない言語なのかな?」


「いや、どちらかというと、聞き取りにくいという感じだろうか。会話しているように聞こえた」


 ——精霊の会話、か。


 この世界の精霊はどんな会話をしているのだろうか、とタクミは思いを巡らせた。






つづく

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