第17話 旅立ちの朝


 出立の朝、待ち合わせの場所に先に着いていたのはレイカだった。彼女もゴテゴテとしていない軽めの旅装で、得意の長槍を携え、背嚢はいのうには山刀やまがたなが挿してあった。


 タクミを見つけると、駆け寄ってきて胸元から何か取り出した。それは細い銀鎖の首飾りで、綺麗な石が付いていた。昨日、タクミが渡した二色水晶アメトリンである。


「どうだ? 似合うだろう?」


 得意げに尋ねられて、初めてタクミはその二色水晶の紫色の部分が、レイカの青い瞳に差し込む紫色と同じ色だと気が付いた。


「うん、綺麗だね」


 それは水晶の煌めきを誉めたのか、水晶を身に付けたレイカ自身を誉めたのか定かではなかったが、レイカは素直に自分の事だと受け取って頬を染めた。


 旅立ちを見送ってくれたのは二十人ほどだ。それでもその時村に居た全員だというからやはり大きな村ではない。


「父と兄が遠くの『街』に行っているから良かったぞ」


 レイカは見送りの人々に手を振りながらそう言った。どういう意味かと聞けば、


「父と兄が居たら、タクミと二人で出かけるなんて許すはずがないからな。うん、私は幸運だった」


 と一人納得している。


 ということは——。


 タクミは帰りに村に寄るときはレイカの父兄に会わないよう気を付けようと思った。





つづく

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