第16話 人の優しさに触れて泣きそうな僕

 その夜はチャベスの家に泊めてもらい——この子はたいそうタクミを気に入って、タクミを歓待すること限りなかった——しかも出立の支度したくまで整えられた。


 チャベスの母親は彼が取ってきた蜜で喉の痛みが引いたものの、まだ軽い咳が残っていたのでとこについたままだった。


 だから支度を整えたのはチャベスとその父親だったのだが、用意出来うる限りの物を持たせてくれた。


 なにしろタクミは軽装で、右の腰には例の『鉱石銃』、背中側のベルトには厚手のナイフ、そして左側に小さなポーチ一つを付けているだけだった。ポーチには鉱石のケースと携帯食料が二日分しかない。


 その代わりと言うべきか、上着のポケットや内ポケットには少量の応急手当のキットを忍ばせていた。だからタクミは軽い怪我や少しの発熱には対応出来るつもりだ。


 必要なのは食料と野営道具。


 そしてチャベスの家ではそれを整えてくれたのだ。野営に使う毛布や調理道具、布製の背嚢はいのうは父親が若い頃に使った物だと言う。


「必ず返しに来ます」


 タクミがそう言うと、チャベスの父親は旅の道具は『旅をする』のだから気にしなくて良いと笑った。それでもタクミはそれを彼の息子であるチャベスにちゃんと使って欲しかったのだ。


「帰り道だから、必ず寄るよ」


「待ってるね、お兄ちゃん」


 そうして小さなチャベスと寄り添って寝た。傍に誰かの温もりを感じて眠るなど、いつぶりのことだろうかと、タクミは少しだけ切なくなりながら眠りについた。





つづく

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