第14話 勇猛なる女戦士?

 その後、村長はタクミに村への滞在を許可してくれた。


「父はどこへ行くと言っていましたか?」


「神の塔を目指すと言っていた」


 村長は地図を広げると一点を指差した。


 ——この世界の地図か。


 大して広くはない。中央に大きな湖がある、いわばドーナツ状の世界だ。描かれていない部分は海だろうか。


 ——聞いていた通りだ。


「ここがこの村で……真っ直ぐに行けば十日くらいかのう」


 村長は起伏が多い事を含め、切り立った崖などを迂回するよう勧めてきた。一度中央の湖に出て、湖沿いに移動して神の塔を目指す方が良いと言う。迂回路はおよそ倍の二十日ほどだと言う。


「おそらくそなたの父もその道程を選んでいるはずだ」


 タクミは素直に頷いて、明日の朝出立する事を告げた。それを聞いた村長とレイカは驚く。


「そんなにすぐに行くのか?」


「うん、ひと月前にこの村に来たと言うことは、もうすでに『神の塔』に到着していると思うんだ。そこから更に奥地へ進んでいたら厄介だから」


「そうか。連れ戻しに来たんだったな」


 レイカはしばし腕組みをすると、おもむろに村長に向かって宣言した。


「村長、私はタクミについて行く」


「ええっ?」


「『神の塔』は私も行ってみたいと思っていた。途中のヨバラズ村までは行った事もある。案内も出来る」


「いや、そんな迷惑をかけるわけには——」


「迷惑じゃない。タクミはこの世界の獣を知らない。さっきも大蝦蟇おおがまの体液に触れそうになった」


 それは——。


 確かにそうである。その点については情報が無い。


「それに、あの男と同じなら、この世界のしきたりも何も知らないと言う事だ。それも不安ではないか?」


 どうやらしきたりを知らない父は何か迷惑でもかけたらしい。同じ轍を踏むのは御免だとタクミは思った。


 それに、と旅の事を考えれば準備が心もとない。手持ちの鉱石と携帯食では二十日もかかる旅をするのは誰かの手助けがいる事は明白だ。


 タクミは二人に向かって頭を下げた。手助けをして欲しい、と。


 しかし予想に反して村長はあまり良い顔をしなかった。それもそのはず、レイカは村で一番の槍の使い手で、誰よりも勇猛な戦士であるという。


「勇猛とはなんだ、勇猛とは! わ、私はそんなに猛々たけだけしくは無い!」


 顔を真っ赤にして怒るレイカだが、年頃の少女に『勇猛』という表現は甚だ失礼である。村長は慌ててレイカをなだめた。


「どうしたレイカ? いつもならそなたの強さを誉めると喜んでいたではないか?」


「そ、それとこれとは別だ!」


 どうやらレイカはタクミの前で言われたのが気に入らないらしい。ついには赤く染めた頬を更に赤くして、


「とにかく、ついて行くと言ったら行く!」


 と叫んだ。





つづく

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