第13話 父の残した物


 それは村長の家にあると聞いたので、タクミはレイカに案内されてそこへ向かった。


 村長はタクミがチャベスを救った事や、『鍵』を開いた事を聞いてだいぶ態度が柔らかくなっていた。


 父親が残して行った『不思議な物』について訊ねると、早速布に包まれた何かを取り出して来た。大して大きくはない。親指程の大きさだろうか。村長はそっと包みを開いた。


 中から出てきたのはきらきらと光る金属製の結晶だった。


「これはこの世界には存在しない鉱物だと聞いた。君はこれが何かわかるかね?」


 金属製で虹色の光沢。正方形の結晶が幾つも連なり、親指程の大きさまで成長している。


「——これは、ビスマス結晶ですね」


 間違いない。


 現にタクミも標本として一つ持っている。向こうの世界では取り立てて珍しいものではない。


 これがこの世界には無い物質なのか。


「ほう、ビスマスというのか。君の父親は名称までは知らなかったようだった」


 ——あのくそ野郎はそんな事も知らないのか。


 タクミは胸の中で悪態をつく。


 それなのに村長はそれをそのままタクミに手渡した。冷たく硬質な感触と重みが何か重要な物と思わせてくる。そしてこの世界に無い珍しい鉱物なのになぜ手渡されるのか——?


「これは『鍵』だと言っていた。自分を追いかけてくる者がいたら渡して欲しいと」


「鍵……?」


 また『鍵』だ。


「何の鍵か、わかりますか?」


 タクミの問いに、村長は首を振った。少年は改めてビスマスの鍵を見る。


 薄青色を中心とした虹色の金属結晶——金属の中では柔らかい方だったと記憶している。確かに細長くて『鍵』に見えない事もない。


 これと自分の能力が、父を探す手がかりになるのではないかとタクミは改めて希望を持った。





つづく

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