第11話 開かれた鍵

 タクミはすとんと座り直すと、エナ婆に向かって頭を下げた。改めて『鍵』を開ける気持ちが固まったのだ。


 老婆は満足げに口元を歪めると、その右手を高く上げた。レイカは一歩下がってその様子を見つめる。『別の場所』から来たこの少年は、どんな御力おちからを見せるのか——レイカは思わず期待して瞳を輝かせた。


 エナ婆の右手が心なしかぼうっと光を宿したように見える。そのせいか薄暗い部屋がいっそう暗くなり、部屋の隅は闇に沈む。


 タクミの意識は闇の中に浮かぶ老婆の右手だけを捉えていた。エナ婆の顔も見えず、すぐそばにいるレイカの存在すらも忘れた。


 垂れた頭に光を宿す右手が触れる。


 清涼な風が頭の中を吹き抜けていく感覚があり、光の輪が弾けた——イメージが広がる。


 確かに、タクミの中の何かが外れた。






「——タクミ?」


 レイカの声にハッとして目を開けると、あの不思議な色の瞳が真上からタクミの顔を覗き込んでいた。


「あ……」


 どうやらそのまま倒れていたようだ。気がついて辺りを見回すと、そのまま座っていた敷物の上で寝ていたらしい。銀髪の少女は嬉しそうにタクミの手を引いて起こしてやる。ついでに矢継ぎ早に聞いて来た。


「気分はどうだ? 御力は何かわかるか?」


 ああ、瞳の色も少し変わったな、とレイカに言われて、タクミは思わず自分の目を押さえた。


 ——鏡、鏡はないかな?


 キョロキョロするタクミを見て、レイカはエナ婆から古びた手鏡を借りて彼に渡した。


「——あ」


 手鏡を覗き込むと、そこに映っている自分の瞳の色が、普通の茶色から一段と澄んだ色に変わっていて——更に淡いグリーンが一部に混ざっていた。


 ——うぉぉ、何だこれ!


 随分と印象が変わったとタクミは驚く。これなら元の世界でもモテるかもしれない。


 ——いやそうじゃなくて。


「これで、『鍵』は開いたんだね?」


 タクミはエナ婆に確かめる。肯定の頷きを見て身体を起こすと、確かに身体全体が軽くなった感じはある。思考もクリアな気がした。


 エナ婆は嬉しそうに勢い込んで話し出した。


ババにはわかるぞい。今まで見た事のない御力じゃ! この世に一つしかない授かり物よ!」


 しっかりと手を握られて、タクミは思わず身をひいた。目の前でシワシワの顔がぐねぐねと蠢いている。


「よいか、これは絶対に他人には言うてはならぬ。そなたの御力は——運命を変える力じゃ!」


 ——運命を変える?


「よく聞くのじゃ、少年。これは目の前で起こる事変の結果を逆転させる力じゃ。幾度も使えるわけではない。そなたの生涯において三度だけの御力じゃ」


「三回……?」


「少ないと思うか? しかし他の誰も変える事のできぬ運命を覆す力じゃ!」






つづく

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