第9話 能力の当たりとハズレ
「エナ婆、居るか?」
レイカはタクミを一軒の家に連れて来た。どこの家も似たり寄ったりな石の土台な木造の造りだが、この家だけ外壁に何かの紋様が描かれていた。
中に入ると、ハーブのような爽やかな香りが立ち込めている。部屋の中は乾いていて過ごしやすそうだった。
その部屋の真ん中に、大きな敷物を敷いて更にその真ん中にひとりの老婆が
長い白髪に白濁した瞳。小さく丸めた背中は過ごして来た年月を物語る。
「レイカ? どうした?」
目はあまりよく見えないのだろう。それでもレイカの声を聞き分けて老婆は尋ね返して来た。
「
「んああ、覚えとるよ。見たことのない
エナ婆はしわくちゃの手を擦り合わせて喜んだ。タクミとレイカは目を見合わせる。
——あの男、女性全員にアピールして回ったらしい。
少し呆れ気味にため息をつくと、レイカは婆の前にタクミを座らせた。
「この者も同じ場所から来たという。まだ『鍵』が開いてなければ開けてくれ」
レイカはタクミの了解も得ずにそう言った。タクミとて興味がないわけではないが『鍵』とは何なのかわからないまま、何かをされるのは嫌だった。
「ま、待ってよ! 何? 何するの?」
立ちあがろうとするタクミの肩を背後から押さえてレイカは微笑む。
「この世界に住む人間は、皆年頃になると『鍵』を開けにこの村を訪れる。『鍵』を開けると——」
「開けると?」
「神によって授けられた御力が開放されるのだ」
それが、レイカの『的当て』の能力なのだろう。だがそれが自分の欲する力であるのかどうか、それはわからないようである。
「ハズレもあるの?」
「ハズレ? いや聞いたことはないが……」
そこへエナ婆が口を挟む。
「御力をハズレと思うは期待しすぎるからじゃ」
自らを救国の英雄とでも思いたい輩が、自分に眠る御力が最強最良と思って訪れ、期待した能力と違った時にその落胆は暴力や悪言に変わる。エナ婆はその厄介な事例に何度も出会って来たのだろう。シワシワの顔を更に歪めて語った。
「故に、それを恐れて『鍵』を開けぬ者も居る。だが辺境に生きる者には御力は恩恵じゃ。化物や獣と戦って生きてゆかねばならぬからな」
タクミは先程の
エナ婆は続けた。
「血族で御力が似ることも多い。レイカの父親も眼に宿る御力じゃのう。そして——」
老婆の白濁した目はなぜか真っ直ぐにタクミの目と向かい合った。
「そなたがあの男の息子なら、世にも稀な御力を授かっているだろう」
つづく
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