第8話 鍵開けの巫女
村は穏やかだった。
子どもの声と家畜の鳴き声が時折聞こえてくる他には喧騒というものも無く、コトンコトンと水車の回る音がするくらいだ。
「あれは取り入れた麦を干している。パンや粥を作る」
「へぇ、パンがあるんだ」
「……いくら田舎でもそれくらいある」
レイカはタクミの呟きにムッとして返したが、タクミは慌ててパンに驚いた説明をする。
「ごめん、こちらの文化がわからなくて! その、僕の父が来た時も驚いてなかった?」
「そういえば……パンも牛にも驚いていたな」
「牛もいるの?」
——親子で牛に驚いている。
レイカはこの少年は思ったよりも、ど田舎から来ているのかと考えた。それから少し思い出して首を捻る。
「いや、そうではなかったな。お前の父親は『別の場所』から来たと話していた」
「あっ、そうなんだ。僕もそっちから来たからわからない事だらけで……」
「父親と同じということは、まだ『鍵』が開いていない状態なのではないか?」
「『鍵』?」
レイカはタクミに向かって顔を近づけた。急に綺麗な顔が近づいて来て、タクミはドギマギする。
「私の目を見ろ」
「?」
レイカの瞳は空色と宵闇の紫色を併せ持つ不思議な瞳だった。ひどく澄んでいて、まるで宝石を覗き込んだような輝きを持っている。
「少し変わっているだろう? これは私の特殊な能力を解放した証だ。私は瞳に神の恩恵をいただいた。遠くの的も外さぬ狩りに最適な
「……」
「聞いているか?」
「あっ、はい! 聞いています!」
レイカの瞳に見惚れていたタクミは慌てて身をひいた。女の子の目を見つめるなんてした事がなかった。
「お前の父親はここで『鍵』を開いて行った。ええと、何の御力だったかな? まあいい、エナ婆に聞けばわかるだろう」
レイカの話ぶりだと、そのエナ婆が『鍵』を開けるらしい。
「エナ婆は世襲制でな。代々の鍵開けの巫女がこの村においてこの世界の全ての『鍵』を開ける役割を担っている。だからこの村は——」
——『はじまりの村』と呼ばれている。
つづく
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