第7話 タクミの魔法


 村への道すがら、沢山の話を聞く事ができた。特にチャベスは大蝦蟇おおがまから助けてくれたタクミを気に入ったらしく、「レイカ姐さんはすっごく強いんだよ」とか「村に着いたらマルテロを食べさせる」とか始終話続ける。


「チャベス、少し静かにしろ」


「あっ、レイカねえも話したいよね」


「違う、そうじゃない」


 そんなやりとりをしているうちに、やがて小さな集落が見えて来た。ほのかに炊飯の煙が立ち上り、どこからか家畜の鳴き声がかすかに聞こえて来る。


 いわばのどかな農村というものだ。


「素敵な村だね」


 初めて訪れたタクミも思わずそう口にするほど、どこか懐かしい村である。


 チャベスは母親の元へ薬になる樹液を届けるために先に走って行った。きっと誇らしげに渡すのだろう。タクミはそのかわいい後ろ姿を目で追いかけた。そのまま村を眺める。


 戸数は多くない。二十軒ほどの家が集まって暮らしているらしく、その周りに小さな放牧地があった。しかしそれらを含む土地をぐるりと柵が取り囲んでいる様を見れば、あの大蝦蟇みたいな怪物が襲って来る事もあるのだろう。


 ——それとも村同士の争いでもあるのか?


 少しだけそんな考えが頭をもたげたが、それよりも先に、村の入口前に現れた人々に挨拶をする事に集中する。チャベスが知らせたのかもしれない。


 見た目から村長や村の重鎮という雰囲気の男達である。不審げにタクミをジロジロと眺めて来た。


「安心しろ、村長。チャベスの恩人だ」


 レイカはことの次第を説明した。しかもその最後に、


「魔法使いのようだ」


 と付け加えられたのでタクミは驚いた。


「いや、僕は魔法なんて……!」


「だが、あの緑色の光は何だ? 魔法ではないのか?」


「いや、そのアレは」


 タクミは少し困った顔をしたが、レイカ達の信用を得る方が得だと判断したのか、腰に付けていたホルスターから一丁の銃を取り出した。


 少し胴の太い、不恰好なそれはだいぶ年季の入ったものに見えた。タクミはそれをレイカと村の大人達によく見えるように差し出した。


「これは……?」


「僕の父親が送って来たんだ。確かに魔力を放出するけど、それは装填する『石』の力によるもので、僕の力じゃない」


 少年が銃の一部を開くと中には緑色の蛍石が数個放り込まれていた。八面体のそれは陽の光を受けてキラリと光る。


「この装填室に入る大きさの『石』なら何でもいい。『石』に宿る力を——魔法に変えて撃つ機械なんだ」


 もちろん高価な石ほど魔法力は高いが、結果として中に入れた石は消滅してしまうためどうしても安価な石に限られてしまう。


「これは『街』の商品じゃな。そうそう数のあるものではないし、使える者も限られるという」


 村長は銃をタクミに返しながらもの珍しげに見つめた。それを聞いていたレイカが驚きながら言葉を繋いだ。


「——つまり、タクミは銃を扱う素質があるということか。すごいな」


「ええっ? そ、そうかな?」


 それほどにここの人達は銃をつかわないようである。


 謙遜するタクミを見て、レイカは好ましく思った。とてもあの男の息子には見えない。チャベスを助けた勇気といい、不作法にレイカの容姿に触れる事もない紳士的な態度といい——。


 大抵の他人は初めてレイカに会うと、その豊かに揺れる銀髪と少し尖った耳について興味深げにジロジロと見るか、単刀直入に聞いてくるのだ。


 それをしないだけでも、多分にタクミの印象は良かった。


「さあ、村を案内しよう」


 レイカは少し胸を張って声をかけた。






つづく

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