第5話 勇ましき銀の髪の少女

「君は——?」


「いいからそこから離れろ!」


 少年の問いかけをかき消すように銀髪の少女は命じた。少々、驚きながら言われたとおりに断末魔の大蝦蟇から距離を取る。


 心の臓を貫かれた大蝦蟇は、ドシャリと大地に平伏すとやがて痙攣し始めた。


 そして——。


「げげっ! なんだアレ?」


 少年が思わず呟くのも無理はない。倒された大蝦蟇の背にある、イボというイボから白濁した体液が噴き出て来たのだ。


「触らぬよう、気をつけろ」


 相変わらず硬い声音で少女は注意を促す。その命令口調に、少年は少しだけカチンと来た。


「随分とキツイ物言いだね。僕が何かしたかい?」


 話しかけながら少年が近づけば、少女はチャベスを連れて後ずさる。しかも物騒な山刀やまがたなを少年に向けたままである。


 ——蛙よりも僕の方を警戒してるのか?


 少年は大蝦蟇の痙攣して死に往く姿を横目に見て、そのとどめを刺した長槍に目を止める。


 ——僕を助けてくれたのは彼女だろう。


 そう考えれば命の恩人というわけである。少年は即座に思い直し、立ち止まって礼を言う。そういうところは素直な少年である。少女も宝石のような青色の瞳を瞬かせて、少しだけ緊張を緩めた声で答えた。


「こちらこそ、チャベスを助けてもらったそうだな。ありがとう」


 そして山刀を下げると、大蝦蟇の体液には毒があるから触れるなと説明してくれた。


 ——なるほど。


 少年は幼子に向かって微笑んだ。


「チャベスっていうんだ? 僕はタクミ。よろしくな」


 自己紹介は二人に向けてだった。少女も頷いて「レイカだ」と名乗った。それから、


「君は旅の者か?」


 と問うてきた。





つづく

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