第3話 見知らぬ少年
光はただの光ではなく、斬撃となって
チャベスの身体がふっと軽くなる。彼は何が起きたかわからないまま、生命の危機から逃げ出そうと四つん這いになりながらも逃げた。
前へ前へ。
背中に大蝦蟇の汚らしい怒りの咆哮が聞こえる。同時に舌を切断された痛みを訴えるように周りの樹々に当たり散らした轟音も届いてきた。
——何が起きたんだろう?
転がるように大木の影に滑り込むと、チャベスは呼吸を整える余裕もないまま木陰から大蝦蟇の様子を伺った。
本来なら一目散に村まで逃げれば良い。けれど大事なナイフを落とした事が悔やまれてならない。物が豊富にある村ではないのだ。
チャベスが目にしたのは、大口を開けて喚き痛みに暴れ続ける巨大な蝦蟇の姿である。獲物を逃した事もその怒りの原因の一つだろう。
——何か光ったのが見えた。あの光はいったい……。
きょろきょろと見回してると、それが目についたのか、大蝦蟇がチャベスに気がついた。今まさに逃した獲物が、そこにいる。
大蝦蟇は自分の舌を切ったのはコイツかと言わんばかりに大きく鳴いた。
ブボェエエエーッ!
雄叫びを上げると大蝦蟇は彼目掛けて突進して来る。
——しまった!
チャベスが再び恐怖に陥ったその瞬間、大蝦蟇は一飛びに距離を縮めようと跳躍した。
「うわあああーッ!」
なすすべもなく頭を
「ちぇっ、早く逃げればよかったのに」
声と共にあの淡い緑色の光が見え、同時に逆巻く風の音が聞こえた。
光の矢は今度は宙に舞う大蝦蟇の分厚い腹から背中までを一直線に貫き、虚空へと消えて行く。
撃ち抜かれた反動で大蝦蟇はその場に叩き落とされ、グシャッと耳障りな音を立てた。
「あ……」
チャベスが声の主へ目をやれば、それはまだ歳若い——少年であった。手には何やら見慣れぬ機械を持ち、そこからあの魔法の光が出たのだと子どもながらにチャベスは解釈した。
目が合うと少年はにこりと微笑み、彼の手を取って助け起こしてくれる。
「あ、ありがとう」
「大丈夫?」
思ったより優し気な風貌に、幼いチャベスはほっとした。力が抜けてまたへたり込みそうになるのを我慢する。少年は彼の足に巻き付いたままの大蝦蟇の舌を引き剥がしながら質問して来た。
「ここいらはああいう奴がたくさんいるのかな?」
どうやら助けてくれた少年はこの辺りの者ではないようだ。ここから少し離れた所に水場があり、その湿地帯には大蝦蟇の繁殖地があるのを近隣の者なら知っているはずだからだ。
「げっ、繁殖地だって? またあんなのに会ったらたまらないな。早く移動しようぜ」
チャベスはこくんとうなずくと落としたナイフを拾いに行く。ナイフは落ちた巨大な蛙の体のそばに落ちていた。
その時の二人は大蝦蟇が既に絶命したとばかり思い込み、すっかり油断していた。だからチャベスがナイフに近づいたその瞬間、ぐわっと身を起こした大蝦蟇に咄嗟に対応できず、彼はその前脚に捕らえられ、少年は武器の用意が遅れた。
「しまった!」
少年の武器は魔法を放つ前に準備がいる。それをする前に敵に動かれてしまったのだ。
あとは——。
腰ベルトの後ろに収納している大型のナイフしかない。しかし少年は躊躇する事なくそれを引き抜いてチャベスの元へ走った。
つづく
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