沙漠に焦がれる

十余一

沙漠に焦がれる

 満天の星が霞んでしまうほどの月が、夜空にぽっかりと浮かんでいる。映した水面みなもはゆらゆら揺れる。きっと長やかな浜辺には、波に砕けた月が流れついて煌めいているのでしょう。月の沙漠さばくは今夜も白く美しい。


 淡く輝く月の沙漠を、二頭の駱駝らくだがゆったりと歩いている。鞍やくつわを彩る豪奢な飾りがゆらゆら揺れる。きっと旅の幸運を祈って贈られたものなのでしょう。襟締ネクタイを飾る月長石が白く眩しい。


 駱駝に揺られ旅する王子様とお姫様の心は、ぴったりと寄り添っている。手綱たづなを持つ手がゆらゆら揺れる。きっと砂丘を越えたその先の、素敵なところへ行くのでしょう。揃いの白絹が月光に照らされ麗しい。


 わたしの大きな黒い目は、二人の旅路をくっきりと捉えている。波に揺蕩たゆたいゆらゆら揺れる。きっといつの日か、わたしの元にも王子様が現れるのでしょう。焦がれに焦がれた真っ赤な鱗に愛が欲しい。


 暗い海の底から上ってきては、おかの様子に目を向ける。ゆらりゆらゆら揺れながら、幾夜も飽きずに月の沙漠を眺めていた。

 愛しい人と駱駝にまたがり乾いた大地を旅することができたなら、どんなに喜ばしいことでしょう。

 海を離れた生き物は、その目に海を宿しているらしい。驚きで引き、笑みで満ち、悲しみで潤み、喜びで溢れ出る。広大な海を泳ぐよりも、私だけの小さな海を愛したい。


 空が白み始めた頃、ふわりと不意に訪れる浮遊感。

「やっと迎えにきてくれたのね、わたしの王子様!」



――魚を山ほど積み込んだ船は、大漁旗を掲げて帰港する。



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