第73話 入団歓迎会
次の日。
秋葉原のトレカ大会を見学した俺は休む暇もなく新たに加入する団員の入団歓迎会の準備を行っていた。
俺が加入した際も行われたが、あの時は王都へ向かう途中だったのと加入が急だったということもあって、そこまで豪華な歓迎会は行われなかった。
今回、暁月の旅団へ入団する冒険者は三人、全員が女性でありその内の一人はスカウトという形で誘われた冒険者になる。
歓迎会が行われる場所はチームハウスではなく、以前、エラクトンの街でも行っていたようにレストランを貸切にする形だ。
会場の手配は補給係のリーダーであるアイナが行い、その他のメンバーが総出で飾り付けを行う、普段だとあまり面識のない団員も歓迎会へやって来るので楽しみだ。
「アレン、歓迎会に出す予定の食事の一部を貴方が用意してくれるっていう話だけど大丈夫そう?」
「あぁ、問題ないよ」
王都西区にある大通りから少し路地に進んだ所にあるオシャレなレストラン。
正面入口の横には開放感のあるテラス席が設置され、薄暗くなった夕方時にはイルミネーションのようにライトアップが施される。
この店は王都生まれの団員の遠い親戚が経営しているレストランだそうで、今回会場をすんなり決定できたのも、それら親戚の縁もあって許可を貰えたのが大きい、ランチ時間が終わった後に店を閉めて貸してもらい、掃除や飾り付けを行っていた。
俺は歓迎会で出す食事の一部を担当している。それ以外は料理が得意な団員がレストランの厨房を借りて調理する予定であり、俺が出すのはデザートとメイン料理の一部だ。
「そのワギューっていうお肉は直接鉄板で焼くのよね?他に調味料とかあれば用意するけどどうする?」
「大丈夫、調味料関係もこっちで用意するよ」
テラス席をどかして、BBQのように大型のバーベキューコンロを設置する。この世界だとコンロでは無く巨大な七輪みたいな形をしているが金網もしくは串で肉を焼く事ができ、今回はコンロの上に鉄板を設置している。
俺が加入して直後、キャミルを始めとした数人の団員とはそれなりに仲良くなり、今もチームハウスで暇な時には他愛の無い雑談をしたりする程度まで仲良くなったが、それでもまだ大半の団員とはギリギリ顔を知っている・・・・・・ぐらいのレベルだ。
その為、俺は今回の歓迎会でまだ関係の浅い団員達に顔を知ってもらうべく、今のところ異世界の人達に好評なデザートと肉料理の担当に立候補した。
異世界で食べられる肉は安い物だと筋の硬い魔物の肉が一番広く普及しており、安い金額で腹いっぱい食べることが出来る。
王都でも魔物肉を専門とした食べ放題の様なシステムを採用している店は多く、焼肉という文化は少なくともカインリーゼ王国では広く知れ渡っていた。
ただ魔物の肉は安価であるものの、先程説明したように筋肉質で筋が硬く、ジビエのように獣臭い、それでも肉は肉なので一定以上の人気はあるが、日本人からすれば少し癖が強いと感じるかもしれない。
魔物の肉以外にも動物や家畜の肉も存在するが、地球と比べると数ランク質が下がってしまう。それでも魔物肉に比べると圧倒的に臭みも少なく肉も柔らかい・・・・・・がしかし、こちらは値段が段違いに高く、主に貴族といった富裕層向けとなっている。
そんな中で俺が用意したのは日本が誇る和牛の肉だ。
霜降りと称されるきめ細かな肉質に、まるで溶けるような食感と上品な脂、食用として究極の域まで追求された和牛は今では海外でも広く知られており、日本食と言えば寿司に和牛といわれる程だ。
勿論、和牛は脂身が多く、苦手という人も多いだろうがクオリティの高さは間違いなくこの世界の肉とは比べ物にならない品質を誇っている。
そして俺が今回用意したのは、和牛の中でも一番有名な国産の黒毛和牛だ。肉料理の一部を担当することが決まったその日に既に調べて確保したので黒毛和牛の中でもランクが高い物に加えて、それぞれ肉の特徴も知って欲しかったので様々な部位を用意した。
だから俺は和牛の脂が逃げ出さないように、金網ではなく鉄板を用意してもらった訳だ。
「・・・・・・アレンが自信を持って勧めてくるんだから期待しているけど、折角の歓迎会なんだからあまり下手な物は出さないでよ?」
「分かってる。絶対、皆が驚くさ」
既に肉やデザートはレストランに設置されている氷室に搬入済みではあるが、その存在を上司であるアイナ以外の団員には知らせていない。
ある意味サプライズでもあるので、是非楽しみにして欲しいと和牛の存在を知っているアイナに対して、俺は期待を煽るだけ煽って持ち場の作業に戻った。
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